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あんたのせいよ
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無事に連れ帰る?
僕の任務が、それだとしたら、とりあえず、連れ帰る事は、成功した。
が、問題は、どこに連れ帰るかだった。
「まさかね・・・そんな選択したとはね」
音羽が、宙から顔を覗かせた。
「家に戻しても、害はないよ」
音羽は、逆さになったまま、チョコアイスを食べていた。
「幽霊なのに、アイスは食えるんだな」
「幽霊は、何も食べないなんて、誰が決めた」
器用にアイスを舐める。
「おかげで、捕縛する事ができたろ。あの首輪があり限り、大丈夫だ」
「あのまま、置いてきて、どうかと思ってさ」
僕は、背中で、眠りこけている晴先生の送る先に困っていた。
結局、自分のマンションに連れてきていた。
「何をするか、わからんぞ」
「あなたが、連れてきたのでしょうが!」
僕は、叫び、ソファに放り投げた。
「うまく、飼い慣らすのだな。結局、颯太の力になるのは、彼しか、おらん」
淡々と話す音羽。
僕が、除霊師をやるきっかけをくれたのも、音羽だった。
「母親が、どうして殺されたのか、知りたいのだろう。お前ごとき、人間が相手にできるとは、限らんて」
食べ尽くしたアイスの棒を、くず籠に放り投げる。
「忌々しい人間が、叶う相手ではない」
「晴先生は、なんなのさ。人間だろう?」
音羽は、横目で、チラッと見る。
「人間ではない。まだ、成長の途中だな。やがて、半分、人間の姿も、やがては、消える」
「どうして、あの家に生まれたんじゃ・・・」
「あの家に、赤子が生まれたなんて、話は、ここ五十年は、なかった。あの蔵が、入り口だ」
確かに、晴先生の家の敷地には、陰鬱な気配を漂わせた土蔵があった。
「そういう家は、あるの?」
「あるから、お前の母親は、殺されたし、私がこうしているし、お前がいる」
「どういう事?」
「この世は、お前が思う程、普通の世界ではないって事よ。何が起きて、何が消えていくのか、知っているか?」
音羽の口が、耳まで、裂けていく。
「除霊師をやってて、色々見ただろう。この世は、多面体。何一つとして、普通の事などない」
音羽は、ずっと、僕に憑いている。
何処にも、いかず。一人ぼっちで、どう生きていったら、いいのか、わからない父親に捨てられた僕をここまで、育て上げたのは、音羽だった。
母親の殺されたこの家で、霊と住む僕。
僕に取り憑いているのは、殺された母親ではなく、全く関係のない霊。
「好きで、お前に憑いているのではない」
何度か、音羽は、プチ家出をしている。
「お前には、恨みがあるから、戻ってきた」
そう言って、すぐ帰ってくる。
「恨みではなくて、恩でしょう」
僕は、そう言う。
音羽とは、幼い僕が、過ごしていたお寺で、出逢った。
裏山の大岩に封印された悪鬼と言われる霊だった。
「お前のせいだ」
「あんたのせいだ」
音羽は、事あるごとに、そう言う。
「あのまま、静かな山で、過ごす事ができたのに」
そう、音羽は、豪語する。
「身請けを断った代官に殺された花魁が、前世と聞いたけど。恋焦がれた人と一緒になれなかった恨みで、村人や代官を殺しまくったって、本当?そんなしおらしい所あったんだ」
寺の住職から、聞いた伝説が、音羽の前世と聞いていた。
「ばか言え。そんな昔話、誰が作った!」
「だよね。そんな美しい話の訳がない。当たっているのは、悪鬼だった事だろう」
「ふん」
音羽が、気を悪くして、消えた所で、晴先生が、長い夢から覚めたようだった。
僕の任務が、それだとしたら、とりあえず、連れ帰る事は、成功した。
が、問題は、どこに連れ帰るかだった。
「まさかね・・・そんな選択したとはね」
音羽が、宙から顔を覗かせた。
「家に戻しても、害はないよ」
音羽は、逆さになったまま、チョコアイスを食べていた。
「幽霊なのに、アイスは食えるんだな」
「幽霊は、何も食べないなんて、誰が決めた」
器用にアイスを舐める。
「おかげで、捕縛する事ができたろ。あの首輪があり限り、大丈夫だ」
「あのまま、置いてきて、どうかと思ってさ」
僕は、背中で、眠りこけている晴先生の送る先に困っていた。
結局、自分のマンションに連れてきていた。
「何をするか、わからんぞ」
「あなたが、連れてきたのでしょうが!」
僕は、叫び、ソファに放り投げた。
「うまく、飼い慣らすのだな。結局、颯太の力になるのは、彼しか、おらん」
淡々と話す音羽。
僕が、除霊師をやるきっかけをくれたのも、音羽だった。
「母親が、どうして殺されたのか、知りたいのだろう。お前ごとき、人間が相手にできるとは、限らんて」
食べ尽くしたアイスの棒を、くず籠に放り投げる。
「忌々しい人間が、叶う相手ではない」
「晴先生は、なんなのさ。人間だろう?」
音羽は、横目で、チラッと見る。
「人間ではない。まだ、成長の途中だな。やがて、半分、人間の姿も、やがては、消える」
「どうして、あの家に生まれたんじゃ・・・」
「あの家に、赤子が生まれたなんて、話は、ここ五十年は、なかった。あの蔵が、入り口だ」
確かに、晴先生の家の敷地には、陰鬱な気配を漂わせた土蔵があった。
「そういう家は、あるの?」
「あるから、お前の母親は、殺されたし、私がこうしているし、お前がいる」
「どういう事?」
「この世は、お前が思う程、普通の世界ではないって事よ。何が起きて、何が消えていくのか、知っているか?」
音羽の口が、耳まで、裂けていく。
「除霊師をやってて、色々見ただろう。この世は、多面体。何一つとして、普通の事などない」
音羽は、ずっと、僕に憑いている。
何処にも、いかず。一人ぼっちで、どう生きていったら、いいのか、わからない父親に捨てられた僕をここまで、育て上げたのは、音羽だった。
母親の殺されたこの家で、霊と住む僕。
僕に取り憑いているのは、殺された母親ではなく、全く関係のない霊。
「好きで、お前に憑いているのではない」
何度か、音羽は、プチ家出をしている。
「お前には、恨みがあるから、戻ってきた」
そう言って、すぐ帰ってくる。
「恨みではなくて、恩でしょう」
僕は、そう言う。
音羽とは、幼い僕が、過ごしていたお寺で、出逢った。
裏山の大岩に封印された悪鬼と言われる霊だった。
「お前のせいだ」
「あんたのせいだ」
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「ばか言え。そんな昔話、誰が作った!」
「だよね。そんな美しい話の訳がない。当たっているのは、悪鬼だった事だろう」
「ふん」
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