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だから、言ったでしょう?
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少年の持つ刃物が、視界の隅で、光った。
一瞬、僕は、晴先生を心配した。
心配なんか、する必要はなかったのに。
僕は、いつも、オドオドしていた先生を心配した。
暗闇が怖くて、学校の4階の端にあるトイレに行けない先生を。
まじで、心配していた。
ここまで、心配する事は、なかったよね。
先生は。
音羽が、ようやく、抑える事ができた。
邪神だったから。
「うるさい」
晴先生は、その振りかざされた刃物を、簡単に素手で、押さえつけた。
「静かにしてくれないか?」
握った右手からは、一筋も血が流れていない。
「離せ!」
少年は、その手を左右に振るが、晴先生は、びくともしない。
「あまり、揺らすなよ」
苦笑いし、少し、力を入れると、少年は、あっさり、右手を離してしまった。
晴先生は、ナイフを握っていた手を痛める様子もなく、戦利品となったナイフを珍しそうに、見上げていた。
「こんな小さな物で、みんなを驚かせるなんて」
細い刃先を、指で、なぞる。
「こんなのを、武器にするなんて。なんて、度胸のある人間なんだ」
晴先生は、少年を見下ろす。
その顔に宿る瞳は、やや金色を帯びている。
「まさか・・・」
そのまさかだ。座席の窓際だったから、他の人には、見えないが、邪神の半身が現れつつあった。
「ちょっと、待った!晴先生!」
僕は、少年の事より、晴先生の対応で、頭が真っ白になった。
乗務員達も、ナイフを離した彼を確保する事に夢中で、誰も、晴先生の変化に気付いていない。
とは、言っても、その全ての姿を現したら、とんでもない事になる。
「落ち着いて!」
「落ち着くだと?何が・・」
僕は、必死で、記憶を辿った。こんな時、音羽は、何て、言っていたっけ?
「いいか・・・颯太。人間だった時の性格が、残っているから、すぐ、凶暴になるとは、思えないが、制御できなくなる時は、必ず、来る。いつかは、殺されてしまうかもしれない。だが、颯太なら、できると信じている」
音羽は、金の鎖で、邪神の首を締め上げていた。
「普段は、ただのネックレスにしか、見えないだろう。いいか、これで、制御するのだ。」
晴先生の、首には、金色に輝く鎖が、光っていた。
「いつ、効き目がなくなるかは、わからない。お前の能力が勝つのか・・・わからん。危険な奴だ。だが、どうしても、奴の力が必要だ。手懐けるがいい。颯太」
音羽の言葉が、頭を掠めるが、肝心の呪文が出てこない。
「音羽・・・肝心なことを忘れていないか?」
邪神を抑える、その言葉。
その間に、晴先生は、邪神へと姿を和えていく。このままでは、火事どころの話ではない。
「えぇと・・・」
一人の乗務員の目が、晴先生に向けられた。
「まずい」
その瞬間、頭の中に光が走った。
「縛!」
颯太は、やっとの思いで、印を結んだ。
「キャ・・・」
悲鳴にならない声を乗務員があげた瞬間、邪神は、いつもの冴えない晴先生に戻り、座席の下にと、転がり落ちていった。
「はぁ・・」
僕は、ため息に似た声をあげた。
「先生。ダメでしょう。寝すぎですよ」
確認するような乗務員の視線の中、僕は、晴先生を抱え上げた。
そこには、無精髭で、涎を垂らして、眠りこける晴先生の姿があった。
一瞬、僕は、晴先生を心配した。
心配なんか、する必要はなかったのに。
僕は、いつも、オドオドしていた先生を心配した。
暗闇が怖くて、学校の4階の端にあるトイレに行けない先生を。
まじで、心配していた。
ここまで、心配する事は、なかったよね。
先生は。
音羽が、ようやく、抑える事ができた。
邪神だったから。
「うるさい」
晴先生は、その振りかざされた刃物を、簡単に素手で、押さえつけた。
「静かにしてくれないか?」
握った右手からは、一筋も血が流れていない。
「離せ!」
少年は、その手を左右に振るが、晴先生は、びくともしない。
「あまり、揺らすなよ」
苦笑いし、少し、力を入れると、少年は、あっさり、右手を離してしまった。
晴先生は、ナイフを握っていた手を痛める様子もなく、戦利品となったナイフを珍しそうに、見上げていた。
「こんな小さな物で、みんなを驚かせるなんて」
細い刃先を、指で、なぞる。
「こんなのを、武器にするなんて。なんて、度胸のある人間なんだ」
晴先生は、少年を見下ろす。
その顔に宿る瞳は、やや金色を帯びている。
「まさか・・・」
そのまさかだ。座席の窓際だったから、他の人には、見えないが、邪神の半身が現れつつあった。
「ちょっと、待った!晴先生!」
僕は、少年の事より、晴先生の対応で、頭が真っ白になった。
乗務員達も、ナイフを離した彼を確保する事に夢中で、誰も、晴先生の変化に気付いていない。
とは、言っても、その全ての姿を現したら、とんでもない事になる。
「落ち着いて!」
「落ち着くだと?何が・・」
僕は、必死で、記憶を辿った。こんな時、音羽は、何て、言っていたっけ?
「いいか・・・颯太。人間だった時の性格が、残っているから、すぐ、凶暴になるとは、思えないが、制御できなくなる時は、必ず、来る。いつかは、殺されてしまうかもしれない。だが、颯太なら、できると信じている」
音羽は、金の鎖で、邪神の首を締め上げていた。
「普段は、ただのネックレスにしか、見えないだろう。いいか、これで、制御するのだ。」
晴先生の、首には、金色に輝く鎖が、光っていた。
「いつ、効き目がなくなるかは、わからない。お前の能力が勝つのか・・・わからん。危険な奴だ。だが、どうしても、奴の力が必要だ。手懐けるがいい。颯太」
音羽の言葉が、頭を掠めるが、肝心の呪文が出てこない。
「音羽・・・肝心なことを忘れていないか?」
邪神を抑える、その言葉。
その間に、晴先生は、邪神へと姿を和えていく。このままでは、火事どころの話ではない。
「えぇと・・・」
一人の乗務員の目が、晴先生に向けられた。
「まずい」
その瞬間、頭の中に光が走った。
「縛!」
颯太は、やっとの思いで、印を結んだ。
「キャ・・・」
悲鳴にならない声を乗務員があげた瞬間、邪神は、いつもの冴えない晴先生に戻り、座席の下にと、転がり落ちていった。
「はぁ・・」
僕は、ため息に似た声をあげた。
「先生。ダメでしょう。寝すぎですよ」
確認するような乗務員の視線の中、僕は、晴先生を抱え上げた。
そこには、無精髭で、涎を垂らして、眠りこける晴先生の姿があった。
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