それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
19 / 79

闇に巣食う者

しおりを挟む
颯太や晴の様に、除霊師が居るという事は、他にも居ると言う事で、いつ、どこで、出会うかは、わからない。音羽は、それを警戒していた。颯太自身、修行を積んだ訳ではなく、天性の能力である。やはり、素質があり、修行を積んだ者には、敵わない。取り返しのつかなくならないうちに、辞めさせえてしまえば、危険な目に遭わなくて済む。答えは、2つに1つだ。能力のある者を探し出し、味方につける。もしくは、颯太を手放す。音羽自身、その為には、消滅してしまう。颯太から、離れる事は、この世の因縁を断ち、消滅する事しかない。自分の願いは、果たせない。
「颯太。ごめんよ。まだ、話せない」
音羽は、真実をまだ、颯太に、話す訳には、いかなかった。このまあ、颯太に取り憑いて、居るしかない。
「だとしても・・」
音羽の恐れている事が、起きつつあった。颯太の住むマンションは、割と、お金持ちの多い地区にあった。が、その一本、裏に行くと、貧困層の人達が住む団地街があった。日雇いや放浪者が、あちこち、路上に住み、子供達や女性が、夜遅く近寄る事は、危険だと言われる通りが、近くにある。そこには、近寄らせないように、音羽は、気をつけていた。まだ、颯太には、敵わない相手が、住んでいるからだ。
「出会わせたくない」
音羽は、思っていた。貧しいから、危険なのではない。弔われない者やマイナスの気が、陰鬱な者を呼び寄せる。その団地街には、古くからの寺があった。
「颯太には、敵わない」
音羽は、その寺から漂ってくる陰気な空気を、感じていた。まだ、能力の足りないその相手に、颯太が、出会ってしまい、負けてしまったら・・・。その相手が、敵だとしたら。そう、あの「混沌」と同じ類だとしたら。音羽の恐れていた事が、思わぬ形で、訪れる事になる。
 その日は、依頼のメールを、紐解き、その現場に向かう筈だった。あれから、晴の姿を見る事は、なかった。今流行りの感染症で、しばらく、休みだと、学校では聞いていた。
「まずい事になって、ないか?」
「まだ、少し、時間がかかるんだろう?」
音羽は、颯太の目になって、宙を泳いでいる。
「本当に、この辺りに、殺人犯を見た霊がいるのか?」
同じ道を何度も、回っているので、不安になった颯太は、聞いた。未解決事件の被害者の友人からの依頼だった。被害者の霊を探し回っているうちに、その殺人犯を見たという例がいると聞いた。その霊を探しているのだが、どうしても、同じ場所に戻ってきてしまう。そのうちに、2人は、迷い込んでは行けない道に、たどり着いてしまった。
「まずい。颯太。戻ろう」
いつになく、音羽が焦っていた。
「危険だ。戻るんだ」
音羽の髪が逆立っている。耳元まで、口が裂け、音羽の身長が、上に高く伸びている。
「いいか、振り返らずに、戻るんだ」
「何が、起きたんだい。僕には、何も・・・」
正面から、青白い炎が見え始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...