それは、人に憑く。

蘇 陶華

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砂の海の面影

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颯太が、守っている事。それは、なるべく学生らしく生活する事。海外で仕事をしている父親を心配させない為でもある。また、幼い時に亡くなった母親との約束でもある。
「なるべく、人と同じ生活をする事」
人と同じ。が、母親の願い。他の人より、目立たず。地味に。背景に溶け込め。口癖の様に母親が言っていた。
「だったら、人並みに勉強しとけ」
口の悪い音羽が言った。時折、宙から現れる音羽に、カンニングの手伝いをさせようとしたが、字が読めなくて役に立たなかった。どうしたら、メールが読めるかって?音羽は、読むのではなく、感じるのだ。そして、五つ目の目で、見る。
「だから、昼間は、学生らしくしろ」
約束通り、昼間は、学生の生活を行い。夜間は、除霊師として、暗躍する。人気のない、高校生が住むには、高級すぎるマンションで、除霊の相談メールを読み漁る。音羽と協力しあい、霊障のスポットを探す。それは、ある目的の為。
「今どき、マザコンかよ」
音羽は、時折、颯太の知らない言葉を使う。
「マザコン?」
「お袋さんの事が、トラウマになっているんだろう?」
除霊師になったのも、母親の死がきっかけだ。
「それが、マザコン?」
「ママ、大好き」
「それは、当たり前じゃん。黙っとけ」
音羽は、にぃっと笑う。
「そんな甘えん坊が、たどり着けますかな」
「ふん」
あの日、学校から帰ると、母親が亡くなっていた。どうしてなのか?警察は、自殺として、片付けていた。そうではない。父親は、逃げるように海外に行って、戻ってこない。母親が、亡くなった理由は、自分だけが、知っている。夢に現れる母親は、何かを語りかけるが、もう少しで、目が醒めてしまう。母親の居る果てしない砂の海。そこが、どこにあるのか、颯太は知らない。
「やっぱり・・・」
授業の合間に、窓の下を見下ろす。もう、始業時間が過ぎ、時計は、9時半を示していた。
「やっぱり、あいつ来ていないな」
晴の姿がない。隣のクラスの古典の授業も自習だったらしい。
「どこに行ったんだよ。晴は」
「自分の世界に、飛んだと思うけど。多分」
「多分?」
「本人は、気づいてないけど。自分の世界に、奴を連れ込んだ。だけど、戻れなくなったってとこか」
「で?どうなる?戻れないと」
「行った事ないから、わからない」
「晴って、一体、何者なんだ?ただの除霊師ではないだろう?」
「特殊な能力を持つとしか聞いていない」
音羽の霊同士のネットワークは、広く、過去の情報も探り当てる。晴が、ただならぬ能力の持ち主と聞いてきたらしい。
「飛ぶことは、できても、戻れないんじゃ、使えないね」
音羽は、笑うと、またもや、宙に消えていった。
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