それは、人に憑く。

蘇 陶華

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眠りから醒めて元に戻る時

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闇なのか。
晴は、天から降りてくるのが、夜の闇なのか、先ほど、一瞬だけ見た闇なのか、わからなかった。双子の少女が言う夜が、あたりに満ちたのか、わからなかった。深い闇。あの時見た闇が満ちたと思った。
「夜が来たわ」
「早く、逃げなさいと言ったのに」
「可哀想に」
「可哀想」
古木の少女は、口々に晴を笑った。
「そんなにおかしいか?」
心底、闇が怖い。幼い時から、闇が怖い。これは、先ほど見た、得体の知れない闇なのか、夜の帷なのか、わからない。明確なのは、恐怖がある事。目がきかない。闇に目が慣れてくると、一直線に見える地平線のどこまでもが、砂漠だった。空に星はない。
「一体、どこなんだ」
「どうして、ここへきた?」
急に背後から、声が聞こえて振り向こうとした。が、動こうとする瞬間、声の主が移動する。
「誰?」
「誰?おかしいじゃないか?」
声は、山彦の様にも聞こえる。
「お前が、一番知ってる筈だろう」
「僕が、知っている?」
「ずっと、私をここに閉じ込めておいて、よく言えるな」
「僕が、あなたを閉じ込めた?」
「忘れたのか?何年も、ここで、お前が来るのを待っていた」
晴は、姿の見えない相手に苛立った。
「いい加減、姿を現せ」
「姿を現せ?」
一瞬、晴の周りだけ、光が灯った。正面に、鏡が現れ、その中に自分の姿が映し出される。
「これは、僕でないか?」
「お前だと?お前の姿が偽りなのだよ」
「冗談は、やめてくれ」
「本当に、忘れたんだな」
夜の帷の中で、晴は、姿なき声と問答を繰り返していた。双子の古木と砂丘以外、何もない世界で、先ほど、颯太を襲った「混沌」が、地を這い回っている。
「まだ、居たのか?忌々しい」
鏡の中の晴が、舌打ちをし、足を打ち鳴らす。「混沌」は、一瞬、逃げようとするが、四方から、赤い光を出すと、内側から、悲鳴を上げながら、消え去ってしまった。
「キリがない」
鏡の中の晴は、ため息をついた。
「こんな奴を消すのに、私を呼ぶのは、やめてくれないか?随分と都合の良い使い方をしてくれるじゃないか?」
「僕は、何を言っているのか、わからない」
「酷いものだな。人の姿を借りておいて」
晴は、生唾を飲み込んだ。
「僕があなたの姿を取ったと?」
そんな筈はない。自分は、昔から、あの家で、大事に育てられた。のんびりとした幼い日々。怖い祖父。家の裏の土蔵には、不思議なものがたくさんあって。
「その記憶が怪しいのだよ」
鏡の中で、もう一人の晴が笑う。
「そろそろ、返してもらおうか」
そう言いながら、鏡の中から、両手が伸びてきて、両肩をしっかりと掴んだ。
「今度は、逃げ出せないぞ」
鏡の中から出てきた晴と体が重なっていった。
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