それは、人に憑く。

蘇 陶華

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鏡の向こうの僕

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辺りは、もう、夜中ではなく、うっすらと陽が登り始めていた。静かな街中に、少しずつ、人の気配が戻りつつある。踏切の脇では、行き交う人々の数が、少しずつ、増え始め、地面に座り込む颯太の様子を不思議そうに、見下ろしていた。ただ、地面に座り込むだけではなく、宙に向かい、ぶつぶつ呟く颯太の姿は、ただの怪しい人にしか見えなかった。
「一体、どういう事なんだ」
颯太とぶつかった瞬間、晴は、弾き飛ばされ、別の空間に消えていった。あの「混沌」
闇と一緒に。
「あれは、魂の集まりだよ。颯太。ただの魂ではない。苦しんで亡くなった。この世に未練や恨みを持った念が集まったものだ。君には、まだ、修行が足りない。対峙できない」
音羽は、厳しい顔をして颯太の前にいた。
「だとしても、全くの素人だろう。あの先生は。少しばかり、霊力があるから、誘おうと言ったのは、音羽じゃないか?」
「少しばかり・・・って、あたしは、言ったか?」
「言った」
ふむ。音羽は、首を傾げて笑った。
「そうかなとは、思ったが、とんでもないのを見つけた」
「とんでもない?」
「お前より、全然、力は、上だな。なんでか、わからん。同じ能力同士をぶつけ合うと、弾け合う。より能力のある者が、奴と対峙する事になる」
「じゃ・・・晴は、どこに?」
「混沌に、連れ去られたと、考えたが、そうではなさそうだ」
宙を見上げ、会話する少年を誰もが、不思議そうに見つめ、通り過ぎていく。
「混沌は、連れて行かれたのさ。もちろん、晴の世界にね」
「晴?あの先生の世界に?」
「とんでもない者を見つけた者だよ。だから・・・古典の先生か」
嬉しそうに音羽は、笑う。
「ますます、楽しくなりそうだな。この世界」
「どう言う事だよ?」
「颯太。お前の運命が決まった。生贄だよ。お前は」
音羽の、口が、耳元まで、裂ける。中から、長い牙の間を行き来する舌が見え隠れする。
「楽しみだなぁ。あたしの待った世界になる」
「何が起きるんだよ」
当惑する颯太の前に、音羽は、突然、ハッとして
「おっと!颯太。今日は、授業があったな。さぁさぁ、学校に行く準備だ。現世の生活も大事だからな」
「晴先生は?」
「さぁ?生きていれば、帰ってくるさ」
音羽は、突然、視界から、消え去ったのである。
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