それは、人に憑く。邪神備忘録

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
12 / 79

邪神の住む世界

しおりを挟む
「だから、言ったんだ」
音羽は、地面に這いつくばる颯太を見下ろして言った。
「まだ、早い。準備ができていないんだ」
「準備?僕は、そんなの誰も、待ってくれない」
「誰も、君の事を言っていない」
音羽は、少し、怒っている様だった。
「考えもしない行動が、他人を危険に巻き込むんだ」
「あれ?っと言う事は、僕ではなく」
「そうだよ。晴。だよ。まだ、何も、準備ができていない。危険すぎるんだ。」
「だって・・・晴を連れてきたのは?」
音羽は、ムッとした。
「あたしだよ。お前を助ける為、やむなくだ」
音羽は、珍しく、地面に降り、宙を見上げていた。
「無理かもしれない。だけど、これも、試練だよ。晴」
じっと、見つめる宙には、黒い闇が渦巻いていた。

「一体、何が起きたんだ?」
晴は、起き上がり頭を振った。
「ここは、どこだ?」
わかるのは、自分の家ではないとの事。どこまでも続く砂漠の中に晴は居た。そばには、一本の枯れかけた木が、立っていた。
「見慣れない景色だけど」
自分の記憶を辿ってみた。突然、現れた音羽の髪に呑まれ、もがいていたら、突然、宙に放り出された。
「げ!」
聞きなれた少年の悲鳴と頭痛が遅い、気がつくと、この砂漠に落とされていた。
「全く、一体どこだ?」
立ち上がろうとしたが、頭痛が酷く、目眩がする。どこかに、寄り掛かろうにも、何もない。仕方なく、古木に捕まろうとするが、伸ばした晴の手を、古木がすり抜けていく。
「なんだ、この古木。意志があるのか?」
古木は、風もないのに、ゆらゆらと揺れている。
「気持ち悪いな、こんな所に、一本だけの木なんて」
晴が触れようとすると、体をよじる様に逃げる古木。よく見ると、二人の人間が身を寄せ合う様にも見える。
「もしかして?」
一本の木に見えた古木は、少女が互いに体を寄せ合い、立っている姿だった。
「人間の少女?」
晴が気付き、よく、姿を見ようと目を凝らすと、顔と思われた部分が、急に動き出し、両目を開いた。
「気づいた?」
少女は、晴の顔を見つけると急に大きな声を出した。
「気づいたみたい。ねぇねぇ、誰かいる?」
「いるよ。ここにいる」
抱き合う様にいた、もう一人が声をあげる。
「夜ならないうちに、変えればいいのに。夜になったら、殺されるよ。」
「殺されてしまえばいい」
2人は、口々に叫び、身をよじる。
「あのさ・・」
古木が、2人の少女だと言うのも、衝撃だったが、晴は、思い切って声をかけた。
「夜になると、誰かが来るの?」
「お前なんて、食われてしまえ」
「闇の主に食われるがいい」
2人は、自分達の体が、晴に触れてしまった事が、嫌だったようだ。
「あっち行け!」
「ここに近寄るな」
晴が近寄ろうとすると、2人の少女の声が大きくなってしまうので、晴は、離れる事にした。どこまでも続く砂丘の上を歩いて行くと、ついに、足元を掬われ、谷へと滑り落ちてしまった。気がつくと、辺りには、満点の星が輝く、夜になっていた。
「夜か・・・」
古木の少女が言っていた夜がやってきていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...