それは、人に憑く。

蘇 陶華

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踏み入れた別の世界

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突然、視界を奪われた晴は、それが音羽の髪とは、わからずにもがいていた。晴を飲み込んだ音羽の髪は、今、襲われようとしている颯太の前に、吐き出した。自分の身に、何が起きたのか、わからないまま、暗闇の世界から、現実の世界に叩き出され、動揺していた。
「なんなんだ!」
顔から地面に落ち、メガネが、割れてしまいそうになった。メガネがないと何も見えない。顔面をしたたかに、打ちつけて、晴は、しばらく動けなかった。
「誰か、説明してくれ」
突然、降ってきた晴に、颯太は叫んだ。
「このタイミングで?先生。どうして、来た?」
「え?」
聞き覚えのある声に、片方のレンズが割れたメガネを慌てて掛け直す。
「ここは、一体?」
今まで、部屋にいた筈だ。突然、宙にあの幽霊が現れて。
「先生。説明している暇はない」
所々に、燃え盛る炎を掛けながら、渦巻く闇が颯太を飲み込もうとしている。体に巻き付く闇の腕は、次第に太くなり、颯太の体のほとんどを覆っていく。
「あれ?なんか、大変な場面に来てしまった?」
「音羽!早く、なんとかしろ」
晴の様子では、助けてくれそうにない。颯太は、叫んだ。この闇は、「混沌」
と言う。音羽が以前、言っていた。成仏できない雑霊達が集まり、次第に大きくなっていく。その霊達は、救いを求めて、霊や霊能者達を呑み込んでいく。飲まれたら、生きて戻れない。
「音羽!」
音羽が、敵う筈はない。同じ霊体。万が一、負けたら、音羽が、吸収されてしまい、その力を奪われてしまう。
「ダメか」
よりによって、「混沌」に出くわすとは。颯太は、何とか、呪を唱えるが、口の中にまで、闇の触手は、入り込み、うまく、唱えられない。
「なんで?音羽は、先生を?」
颯太が、目を向けると晴は、初めて見る「混沌」の状態に、腰を抜かしていた。
「ダメだ・・」
まだ、力が足りない。近づくな。音羽が、そう言った。もう、ここで、負けてしまうのか・・。そう思った時に、音羽の長い髪が、晴を捉えていた。
「先生。いつまで、寝ているの。いい加減、起きなさいよ」
長い髪が、晴を捉え、再度、颯太の上に、放り投げて行った。
「うっそ?」
晴は、壊れたメガネで、視界が定まらないまま、颯太の上へと落ちていった。
「少し、手荒だったかしら」
音羽が、軽く笑った瞬間。颯太と晴の影が重なり合い、光が弾け飛んだ。2人の体が、光と共に、消滅したのかと思う程の光の輪が辺りに、満ちていた。その中に、ぼんやりと立つ、颯太の姿があった。
「一体、何が、起きたの?」
そこには、「混沌」の欠片も無ければ、晴の姿もなかった。
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