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非力な対峙と音羽
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「私のせいで、あの子が迷っているなんて」
メールを音羽に削除される前、颯太は、クライアントの母親と直接、話をしていた。
「せめて、あの子を成仏させて下さい」
「その前に、どうして残っているのか、聞いてもいいですか?」
残ってしまった場合、家族には、知られたくない理由がある場合がある。確認して、反対する家族は今まで、いなかったが、颯太は、必ず確認することにしている。
「お願いします」
母親は、泣いていた。自分の子供を先に見送ったのに、世間で幽霊になって残っているなんて、聞かされたら、どんなに、辛い事だろう。颯太は、すぐ、この案件を受けるつもりでいた。が、音羽は、反対した。
「この剣は、関わるな」
と言う。
「どうして?子供の霊だぞ。母親が心配している」
「子供の霊は、もういない」
「成仏したのか?」
音羽は、答えなかった。
「だから、受けなくていい」
メールは削除された。
「絶対、行くなよ」
音羽は、そう言うと、宙に消えていった。
「だからか?」
不思議な闇だった。噴き上げる黒煙の様に、周りに黒い煙を吐きながら、漂っている。時折、闇の中に萌えがる炎が見える。そして、男女の叫び声が交互に聞こえる。
「一体なんなんだ?」
笑い声とも聞こえる音が響いており、左右に漂いながら、颯太に向かって進んでくる。除霊や浄化はできても、颯太に戦う術はない。颯太は、駆け出した。
「こんなの」
初めてだった。依頼を受けて、払う。クライアントの悩みを解決し、その家族が再出発できるように、アドバイスする。今までは、そうだった。手強い相手でも、音羽の力を借りて乗り切っていた。だが、この得体の知れない奴からは、逃げる術しか思い浮かばない。
「音羽!いるか?音羽!」
逃げ回りながら、颯太は、音羽に呼びかける。その間にも、黒い闇は、幾つもの細い長い腕を振り回しながら、近づいてくる。
「なんだよ」
払おうとすると、すぐ、捕まり、細長い幾つもの闇の手が絡まった。
「嘘!」
まとわりつく、闇の手は熱く、酷い痛みが伝わってくる。
「なんなんだ・・・」
痛みがある。これは、黒煙の様で、黒煙ではない。闇でもない。これは・・・
「生き物?」
颯太の片腕を捉えた闇は、幾つもの手をさらに伸ばし、颯太の首を捉えようとしていた。
「音羽!」
音羽の言う事を聞かなかった事を後悔した。颯太の首が、闇の手に絞められそうになった瞬間だった。
「だから言っただろう?」
目の前に、音羽が、現れた。いつもの様に、宙から、逆さ吊りで現れた。
「敵う相手でないんだよ」
音羽が笑うと、耳元まで、口が裂ける。
「助けてやるよ」
「どうやって?」
そう言うと音羽は、頭を揺すった。長い髪が、視界一杯に広がると、その中から、ものすごい勢いで音を立てて、何かが、地面に落ちていった。
「きっかけは、作っておいたからな」
そう言うと、また、音羽は、宙へと消えていった。
「え?」
颯太が、見たのは、音羽の神の中から、現れた臆病な高校教師 晴だった。
メールを音羽に削除される前、颯太は、クライアントの母親と直接、話をしていた。
「せめて、あの子を成仏させて下さい」
「その前に、どうして残っているのか、聞いてもいいですか?」
残ってしまった場合、家族には、知られたくない理由がある場合がある。確認して、反対する家族は今まで、いなかったが、颯太は、必ず確認することにしている。
「お願いします」
母親は、泣いていた。自分の子供を先に見送ったのに、世間で幽霊になって残っているなんて、聞かされたら、どんなに、辛い事だろう。颯太は、すぐ、この案件を受けるつもりでいた。が、音羽は、反対した。
「この剣は、関わるな」
と言う。
「どうして?子供の霊だぞ。母親が心配している」
「子供の霊は、もういない」
「成仏したのか?」
音羽は、答えなかった。
「だから、受けなくていい」
メールは削除された。
「絶対、行くなよ」
音羽は、そう言うと、宙に消えていった。
「だからか?」
不思議な闇だった。噴き上げる黒煙の様に、周りに黒い煙を吐きながら、漂っている。時折、闇の中に萌えがる炎が見える。そして、男女の叫び声が交互に聞こえる。
「一体なんなんだ?」
笑い声とも聞こえる音が響いており、左右に漂いながら、颯太に向かって進んでくる。除霊や浄化はできても、颯太に戦う術はない。颯太は、駆け出した。
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初めてだった。依頼を受けて、払う。クライアントの悩みを解決し、その家族が再出発できるように、アドバイスする。今までは、そうだった。手強い相手でも、音羽の力を借りて乗り切っていた。だが、この得体の知れない奴からは、逃げる術しか思い浮かばない。
「音羽!いるか?音羽!」
逃げ回りながら、颯太は、音羽に呼びかける。その間にも、黒い闇は、幾つもの細い長い腕を振り回しながら、近づいてくる。
「なんだよ」
払おうとすると、すぐ、捕まり、細長い幾つもの闇の手が絡まった。
「嘘!」
まとわりつく、闇の手は熱く、酷い痛みが伝わってくる。
「なんなんだ・・・」
痛みがある。これは、黒煙の様で、黒煙ではない。闇でもない。これは・・・
「生き物?」
颯太の片腕を捉えた闇は、幾つもの手をさらに伸ばし、颯太の首を捉えようとしていた。
「音羽!」
音羽の言う事を聞かなかった事を後悔した。颯太の首が、闇の手に絞められそうになった瞬間だった。
「だから言っただろう?」
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「助けてやるよ」
「どうやって?」
そう言うと音羽は、頭を揺すった。長い髪が、視界一杯に広がると、その中から、ものすごい勢いで音を立てて、何かが、地面に落ちていった。
「きっかけは、作っておいたからな」
そう言うと、また、音羽は、宙へと消えていった。
「え?」
颯太が、見たのは、音羽の神の中から、現れた臆病な高校教師 晴だった。
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