それは、人に憑く。

蘇 陶華

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迷ってます。取り憑いた訳ではないけど。

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僕が、怖い物。お化けや妖怪の類。幼い時に、宿題をしなかったら、裏にある蔵に入れると言われて、失禁した事がある。だって、ウチにある蔵は、先祖代々、伝わる土蔵で、よく、誰かが、覗いているように見えたから。僕は、この手が嫌い。この颯太は、その土蔵と同じ雰囲気があった。なるべく、近寄らないようにしていた。何度か、ニアミスがあったが、僕は、逃げ延びる事に成功していた。が!ここまで、僕の家まで、訪ねてきた。僕は、颯太の連れている者を見た瞬間、気を失った。もう、このまま、僕を放置してほしい。そう願ったが、なかなか、颯太もしぶとかった。玄関先で、横たわった僕をリビングまで、引きずり、僕が目を覚ますのを、2人?見下ろしながら待っていた。
「だから、言っただろう?絶対、顔を見せたら、気を失うって」
「う・・・ん。そんなに驚く事か?」
男っぽく話すのは、颯太の連れてきた者だ。確か、髪の長い、和服の女の子だった筈だが、口調は、男の子だった。
「急に姿を現すから、倒れたんだよ。だから、言っただろう?最初が肝心だって」
「こんなに、度胸がなくて、仕えるのか?」
「確かだと思ったんだけどなー」
颯太は、不服そうだ。
「音羽は、どう思う?」
「脈はないね」
音羽と言われたその者は、冷たく言い放った。
「私の姿を見て気を失う位では、役に立たん」
音羽と呼ばれた少女は、中で、一回転すると僕の枕元に降り立った。幽霊の筈なのに、着物の裾が頬に当たり、僕は、危うく、表情に出そうになった。
「時間があるのか?」
「助けてほしいって、メールが来て、6時間が経過している。そろそろ行かないとまずいな」
「こんなんじゃ、役に立たないだろう?」
音羽は、苛立っていた。僕の周りを、行ったり来たりしている。
「あの老婆さん、話がわかるかと思ったけど、一瞬だけかよ」
「まあまあ、音羽。女の子なんだから、優しく、怒ってね」
「優しく怒ってね。なんて無理だろう」
音羽は、興奮すると、口元が裂けてくる。僕が、いつまでも、横たわっているので、颯太は、ため息をつくと、諦めたらしく立ち上がり、玄関に向かい始めた。
「行くのか?」
「当てにしたんだけどね。ダメだね。この人。覇気がない」
颯太が、移動すると音羽も、一緒に移動する。どうやら、音羽は、颯太に憑いていて、離れる事ができないらしい。
「放置しておく事ができないから、もう行くよ」
颯太が玄関から外に出ると、音羽も後を追って、消えていった。
「良かった」
寝たふりで、横たわった僕が、起き上がったのは、彼らの気配が無くなってからだった。あんな幽霊を見たのは、初めてだったので、動悸が止まらなかった。
「冗談じゃない。ろくな目に遭わない」
大体、幽霊を見てしまうなんて事、ありえない。きっと、目の錯覚に違いない。僕は、玄関の戸締りを行い、何事もなかったと思い込む事にした。そう、この日は、事なきを得たかもしれない。けど、僕の災難は、颯太が現れた瞬間から始まっていた。
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