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狐の見送る嫁入りは、赤い雨が降っていく

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後ろから見送った白夜狐の姿を一生、忘れる事はないだろう。巫女は、白装束に身を包み、八百万の神の待つ、神殿の前にいた。自分は、ここから、もう、白夜狐と会話する事はない。深くおりた御簾の中にいる神が、自分の主人である。自分に背を向けた白夜狐の事は、忘れよう。
「中に入る前に、お話があるそうです」
誓いの酒を酌み交わす前に、話があると眷属の一人に呼びかけられた。
「今?ですか」
「誓いの前に、お鏡様にお見せする様にとのおおせでして」
何故か、目を合わせようとしない。神殿の中から、自分を見つめる様々な白い目を感じながら、巫女は、眷属の1人が案内する神殿の裏へと導かれていった。神殿は、一見、地上だけの様にも、見える。が、裏にある入り口から、中に入ると、地下は、2階まであり、その中心に太い柱があり、そこには、様々な神々の顔があたり一面に彫ってある。巫女がこれから使える八百万の神は、その中の中心にある神で、水の神でもあり、豊穣を司る神でもあった。
「儀式の前になんです?」
柱の前には、面を被った一人の男が立っていた。黒い法衣で、身を覆い、所々にある金糸の刺繍が身分の高さを表していた。
「あなたは?」
只者ではない?そう思って、覗き込むと、黒い方位の男は、同じく黒く細い剣を左手に持ち、何かを手に持っていた。
「何です?」
よく見ると、剣の先からは、紅い血潮がした立っており、その右手には、何かを握っている。そして、その先には。
「ひ!」
巫女は、口を覆った。叫び声が、地上に漏れないように。目にしたのは、黒い法衣を着た男の足元に、うずくまるよく見慣れた青年の姿だった。
「嘘・・・」
巫女は、膝から下に力が入らず、後ろに座り込んでいた。その足元に、倒れていたのは、昨夜、別れを告げ去った白夜狐。その人だった。
「何をしたのです?」
助け起こそうとする巫女を法衣の男は、間に入り、巫女を止める。
「まだ・・・死んではおらぬ」
法衣の男は、不満そうに呟く。倒れる白夜狐の顔の半分は、鮮血に染まり、表情がよく見えない。法衣の男の右手には、赤く染まる二つの玉が握られていた
「兄者の邪魔をするものは、許さない」
「一体、何をしたの?白夜狐!返事をして!」
巫女の声が聞こえたのか、白夜狐の唇が、微かに動く。
「目が、見えなくなった位で、こいつらは、死なない。兄者を悲しませる事があったら、今度は、この位ですまない」
「待って!」
巫女は、法衣の男の腕を掴んだ。
「元に戻して!」
「何で?抵抗もなく両目を差し出した。咎められて当然と納得しているのだろう」
法衣の男は、笑った。
「こいつが、使えなくても、変わりは、たくさんいる。霊力だって、そんな大した事ない」
「戻して!」
巫女は、引き下がらない。
「戻して!戻して!戻せ!」
法衣の男の両腕を掴んでいる手が、震え赤く染まっていく。恐ろしい力で、締め上げ、法衣の男は、腕を抜こうとするが、全く、巫女の力は、衰えようとしない。それどころか、髪は、逆立ち、それに比例するかのように、巫女の両腕は、真っ赤に燃え上がっていった。
「やめろ!」
法衣の男は、振り払おうと暴れ、その足先が、横たわる白夜狐の頭にあたった。
「あぁ!」
巫女は、慌てて、両腕を祓い、白夜狐に駆け寄った。その隙に、法衣の男は、舌打ちをすると、地上へと昇る階段を駆け上がっていった。
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