61 / 75
狐の見送る嫁入りは、赤い雨が降っていく
しおりを挟む
後ろから見送った白夜狐の姿を一生、忘れる事はないだろう。巫女は、白装束に身を包み、八百万の神の待つ、神殿の前にいた。自分は、ここから、もう、白夜狐と会話する事はない。深くおりた御簾の中にいる神が、自分の主人である。自分に背を向けた白夜狐の事は、忘れよう。
「中に入る前に、お話があるそうです」
誓いの酒を酌み交わす前に、話があると眷属の一人に呼びかけられた。
「今?ですか」
「誓いの前に、お鏡様にお見せする様にとのおおせでして」
何故か、目を合わせようとしない。神殿の中から、自分を見つめる様々な白い目を感じながら、巫女は、眷属の1人が案内する神殿の裏へと導かれていった。神殿は、一見、地上だけの様にも、見える。が、裏にある入り口から、中に入ると、地下は、2階まであり、その中心に太い柱があり、そこには、様々な神々の顔があたり一面に彫ってある。巫女がこれから使える八百万の神は、その中の中心にある神で、水の神でもあり、豊穣を司る神でもあった。
「儀式の前になんです?」
柱の前には、面を被った一人の男が立っていた。黒い法衣で、身を覆い、所々にある金糸の刺繍が身分の高さを表していた。
「あなたは?」
只者ではない?そう思って、覗き込むと、黒い方位の男は、同じく黒く細い剣を左手に持ち、何かを手に持っていた。
「何です?」
よく見ると、剣の先からは、紅い血潮がした立っており、その右手には、何かを握っている。そして、その先には。
「ひ!」
巫女は、口を覆った。叫び声が、地上に漏れないように。目にしたのは、黒い法衣を着た男の足元に、うずくまるよく見慣れた青年の姿だった。
「嘘・・・」
巫女は、膝から下に力が入らず、後ろに座り込んでいた。その足元に、倒れていたのは、昨夜、別れを告げ去った白夜狐。その人だった。
「何をしたのです?」
助け起こそうとする巫女を法衣の男は、間に入り、巫女を止める。
「まだ・・・死んではおらぬ」
法衣の男は、不満そうに呟く。倒れる白夜狐の顔の半分は、鮮血に染まり、表情がよく見えない。法衣の男の右手には、赤く染まる二つの玉が握られていた
「兄者の邪魔をするものは、許さない」
「一体、何をしたの?白夜狐!返事をして!」
巫女の声が聞こえたのか、白夜狐の唇が、微かに動く。
「目が、見えなくなった位で、こいつらは、死なない。兄者を悲しませる事があったら、今度は、この位ですまない」
「待って!」
巫女は、法衣の男の腕を掴んだ。
「元に戻して!」
「何で?抵抗もなく両目を差し出した。咎められて当然と納得しているのだろう」
法衣の男は、笑った。
「こいつが、使えなくても、変わりは、たくさんいる。霊力だって、そんな大した事ない」
「戻して!」
巫女は、引き下がらない。
「戻して!戻して!戻せ!」
法衣の男の両腕を掴んでいる手が、震え赤く染まっていく。恐ろしい力で、締め上げ、法衣の男は、腕を抜こうとするが、全く、巫女の力は、衰えようとしない。それどころか、髪は、逆立ち、それに比例するかのように、巫女の両腕は、真っ赤に燃え上がっていった。
「やめろ!」
法衣の男は、振り払おうと暴れ、その足先が、横たわる白夜狐の頭にあたった。
「あぁ!」
巫女は、慌てて、両腕を祓い、白夜狐に駆け寄った。その隙に、法衣の男は、舌打ちをすると、地上へと昇る階段を駆け上がっていった。
「中に入る前に、お話があるそうです」
誓いの酒を酌み交わす前に、話があると眷属の一人に呼びかけられた。
「今?ですか」
「誓いの前に、お鏡様にお見せする様にとのおおせでして」
何故か、目を合わせようとしない。神殿の中から、自分を見つめる様々な白い目を感じながら、巫女は、眷属の1人が案内する神殿の裏へと導かれていった。神殿は、一見、地上だけの様にも、見える。が、裏にある入り口から、中に入ると、地下は、2階まであり、その中心に太い柱があり、そこには、様々な神々の顔があたり一面に彫ってある。巫女がこれから使える八百万の神は、その中の中心にある神で、水の神でもあり、豊穣を司る神でもあった。
「儀式の前になんです?」
柱の前には、面を被った一人の男が立っていた。黒い法衣で、身を覆い、所々にある金糸の刺繍が身分の高さを表していた。
「あなたは?」
只者ではない?そう思って、覗き込むと、黒い方位の男は、同じく黒く細い剣を左手に持ち、何かを手に持っていた。
「何です?」
よく見ると、剣の先からは、紅い血潮がした立っており、その右手には、何かを握っている。そして、その先には。
「ひ!」
巫女は、口を覆った。叫び声が、地上に漏れないように。目にしたのは、黒い法衣を着た男の足元に、うずくまるよく見慣れた青年の姿だった。
「嘘・・・」
巫女は、膝から下に力が入らず、後ろに座り込んでいた。その足元に、倒れていたのは、昨夜、別れを告げ去った白夜狐。その人だった。
「何をしたのです?」
助け起こそうとする巫女を法衣の男は、間に入り、巫女を止める。
「まだ・・・死んではおらぬ」
法衣の男は、不満そうに呟く。倒れる白夜狐の顔の半分は、鮮血に染まり、表情がよく見えない。法衣の男の右手には、赤く染まる二つの玉が握られていた
「兄者の邪魔をするものは、許さない」
「一体、何をしたの?白夜狐!返事をして!」
巫女の声が聞こえたのか、白夜狐の唇が、微かに動く。
「目が、見えなくなった位で、こいつらは、死なない。兄者を悲しませる事があったら、今度は、この位ですまない」
「待って!」
巫女は、法衣の男の腕を掴んだ。
「元に戻して!」
「何で?抵抗もなく両目を差し出した。咎められて当然と納得しているのだろう」
法衣の男は、笑った。
「こいつが、使えなくても、変わりは、たくさんいる。霊力だって、そんな大した事ない」
「戻して!」
巫女は、引き下がらない。
「戻して!戻して!戻せ!」
法衣の男の両腕を掴んでいる手が、震え赤く染まっていく。恐ろしい力で、締め上げ、法衣の男は、腕を抜こうとするが、全く、巫女の力は、衰えようとしない。それどころか、髪は、逆立ち、それに比例するかのように、巫女の両腕は、真っ赤に燃え上がっていった。
「やめろ!」
法衣の男は、振り払おうと暴れ、その足先が、横たわる白夜狐の頭にあたった。
「あぁ!」
巫女は、慌てて、両腕を祓い、白夜狐に駆け寄った。その隙に、法衣の男は、舌打ちをすると、地上へと昇る階段を駆け上がっていった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
魔物の森に捨てられた侯爵令嬢の、その後。
松石 愛弓
恋愛
侯爵令嬢のルナリスは、ある日突然、婚約者のネイル王子から婚約破棄を告げられる。ネイル王子は男爵令嬢カトリーヌとの浮気を開き直り、邪魔とばかりにルナリスを消そうとするが…。
悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら私は乙女ゲームの聖女に転生した・・・らしい
白雪の雫
恋愛
「マリーローズ!ガニメデス王国が認めた聖女であるライムミントに対して罵詈雑言を浴びせただけではなく、命まで奪おうとしたそうだな!お前のような女を妃に迎える訳にはいかないし、王妃になるなど民は納得せぬだろう!マリーローズ、お前との婚約を破棄する!」
女の脳裡に過るのは婚約者に対して断言した金髪碧眼の男性及び緑とか青とかの髪のイケメン達に守られる一人の美少女。
「この場面って確か王太子による婚約者の断罪から王太子妃誕生へと続くシーン・・・だっけ?」
どうやら私は【聖なる恋】という18禁な乙女ゲームの世界に転生した聖女・・・らしい。
らしい。と思うのはヒロインのライムミントがオッドアイの超美少女だった事だけは覚えているが、ゲームの内容を余り覚えていないからだ。
「ゲームのタイトルは【聖なる恋】だけどさ・・・・・・要するにこのゲームのストーリーを一言で言い表すとしたら、ヒロインが婚約者のいる男に言い寄る→でもって赤とか緑とかがヒロインを暴行したとか言いがかりをつけて婚約者を断罪する→ヒロインは攻略対象者達に囲まれて逆ハーを作るんだよね~」
色々思うところはあるが転生しちゃったものは仕方ない。
幸いな事に今の自分はまだ五歳にもなっていない子供。
見た目は楚々とした美少女なヒロイン、中身はオタクで柔道や空手などの有段者なバツイチシンママがビッチエンドを回避するため、またゴリマッチョな旦那を捕まえるべく動いていく。
試験勉強の息抜きで書いたダイジェストみたいな話なのでガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義です。
ヒロインと悪役令嬢sideがあります。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる