上 下
65 / 77

小さな裏切りの代償

しおりを挟む
「ここに君が来たのは、彼女を連れ帰ってくれとお願いするだけではないよね」
リファルは、身構えた。
構えた右手には、いつの間にか、細い剣が握られていた。
「招待したつもりが、招待されるなんてね」
薄く笑う。
「縁があるよ。全く、壁画が思い出させてくれたよ」
「私に、剣を向けるのですか?」
陽葵は、怯む様子もなく、その剣先に、首元を突き出す。
「そう、思うなら、どうぞ、私の命をお取りください」
「以前も、そう言って、逃げ出したよね」
リファルと陽葵のやりとりに、エルタカーゼは、戸惑っていた。
「リファル様、何の事なんです?この娘は・・」
「魂石を持って、逃げた侍従がいたな・・」
「えぇ・・確か、10年位前だったような」
「こんなところで、逢うとはな」
「えぇ?あの雪葵??」
エルタカーゼは、陽葵の顔を、正面から、何度も、見下ろした。
「どうして、ここに?」
剣の先を向けているリファルより、エルタカーゼの方が冷静な様だ。
「何か、理由があっての事でしょう?」
「同情するな。魂石を持ち出すなんて、許せない」
「ですけど、雪葵は、そんな娘では・・」
エルtかーぜは、陽葵の手を取る。
「逢えば、バレてしまうのに、どうして、ここに来たの。本当のあの女性を連れ帰ればいいの?」
「彼女さえ、いなければ、安全なんです」
「誰の事?」
聞かれて陽葵は、目を伏せた。
「一体、何があったの?」
エルタカーゼが、詳しく聞き出そうとした時に、化身した陸羽を伴って、桂華が現れた。
「おや?結局、みなさん、お揃いで?」
化身を解き、人間の姿に戻る。
陸羽は、エルタカーゼやリファルの顔を、見下ろすと、陽葵の前で、ふと、考え込む表情になった。
「お前・・・どこかで」
険しい顔つきで、考え込んだ後、両手を叩く。
「兄者のクリニックの看護師・・・いや、待て。もう少し、前に見た気もする」
険しい顔が、山犬の目になる。
「そうだ・・・あの時、兄者が助けに行った、雪兎だ」
四人の視点の先に、陽葵が居る。
「結局、兄者を追いかけて、現れたか」
その言葉を聞いて桂華の胸が少し痛んだ。
「あなたも、ここに来るとはね」
口を開いた陽葵の言葉が、攻撃だった。
「みんな、ここに簡単に入ったみたいだけど、危険は、感じなかったの?」
桂華は、陽葵の言葉が、届かない振りをした。
「ここには、何かがある。だけど、普通は、入れない筈なのに、入れる」
リファルは、言う。
「罠だと、知ってるよ。この階段は、終わりがない。閉じ込める気なんだ」
「知っているんだ。へぇ」
陸羽は、茶化した。
「なら、この先、どうなるかは、予測つくはずだ」
リファルは、そう言われて笑った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...