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真実の世界への出口

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颯太は、走りながら違和感を感じていた。
自分は、そう、あの時、異性界への入り口を見ただけだった。
この世界の混乱ぶりが意外だった。
簡単に、百鬼を倒すことは、できるが、キリがない。
あの時、マンションの外に聞こえた悲鳴は、何だったのか?
空間の上下関係なく戦う音羽が、何かを言っている。
「何?」
颯太は、百鬼を辺りに散らしながら、叫ぶ。
「変だと思わないか?」
「思っているよ。いつも、僕が、音羽と逢ってから、変な事ばかりだ」
「それを言っているのではない」
あの日、岩の中に閉じ込められていた音羽。
最初は、僕を殺そうとしてきた。
苦しくて、もがく僕の顔を見下ろして、音羽は、泣いていた。
「なんで?」
霊が泣くのは、当たり前だけど、その時、口走っていた言葉を忘れない。
「どうして、置いて行った?」
「どうして?って」
僕は、首を振った。
「一人にしないって言った」
そう言うなり、僕の首を絞める力が緩んだ。
「僕が・・・何か?」
僕は、咽せながら、音羽を見上げた。
見下ろす音羽は、とても、悲しい顔をしていた。
あんな悲しい顔を今まで、見た事がない。
僕は、音羽を受け入れた。
生き場所のない音羽を、僕は、上着に隠して、敷地の祠に匿った。
どこにも、行く場所がない。
幽霊なのか、妖なのか、その時の僕には、わからなかった。
それ以降、音羽は、僕にずっと、憑いていた。
僕の保護者は、僕を捨てた父親でもなく、受け入れてくれた僧正でもなく、行き場のない幽霊だった。
「おかしいだろう?」
音羽は、叫んでいた。
「お前は、あの寝室で、向こうの世界を見たのか?」
「向こうの世界って、砂漠の海だろう?」
「砂漠の海?に限る訳でない」
僕は、思考が停止した。
「入り口が、出口の場合もある」
音羽が言う。
「ここが、あちら側という場合もある」
「え?」
「ほら・・・見ろ」
音羽の示す方角に、見た事のある姉妹が、見えた。
「あれは・・・」
音羽がうなづく。
「末端の鬼が出てきたか」
見た事のある末端の鬼。それは、霊山でもあった姉妹の鬼。そして、砂漠の海の守り人の鬼。愛と累
「・・・という事は?」
颯太は、振り返り、マンションから覗き込む晴、邪神の顔を見上げた。
「異性界・・・砂の海に放りこまれたんだ」
「異性界に?なんで?」
「お前が、望んだからだよ」
音羽の髪が逆立った。
「邪神は、心の隙に、忍び込む。こうも、お前がバカだと思わなかった」
「・・・てか、近くに、変な奴を置くのが、悪い」
「お前の力が、弱いからだ」
「どうしたら、ここから、逃げだせるの?」
「入り口は、出口と言ったろう?戻るんだ」
「戻るって?」
振り返るとマンションの入り口は、硬く、閉じられていた。
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