65 / 82
囚われた式神
しおりを挟む
紫鳳が連れて行かれたのは、アルタイ国の本陣だった。術の綱は、紫鳳の変化した大鳥の体を縛り付けるだけだったが、本陣に連れて来られた頃には、その術は解けていた。
「よく、来た」
相変わらず、拘束されたままの紫鳳は、壇上にいる深く足を組み、両腕を肘掛けに乗せた若い王に目を向けた。
「本陣は、もぬけの殻と聞いていましたが、そうでも、なかったんですね」
紫鳳はそう言う。
「逃げる必要はない。空からの侵入を防ぐ術はしてある」
アルタイ国王のシンは、そばにいる怪しげな男の横顔を眺める。
「随分と簡単に捕まった様だが」
瑠璃光に似たその姿をアルタイ国王は、上から見下ろしている。外見は、自分よりは、幼く見えるが、相手は、式神故、見た目の年齢と姿は、比例しない。主の瑠璃光に似せて造られたと聞いているが、瑠璃光と会った事はないが、半妖と聞いて想像していたのとは、違う。龍神の娘の子と聞いていた。さぞかし、人間離れした容貌かと想像していたが、紫鳳の面差しから、察するに、人間離れしているとしたら、面差しが女性に近いという事だった。アルタイ国王のシンも、先王が、数ある美女の中から、選んだ母親から生まれただけあり、草原の戦士の割には、面差しは整っており、深く編み込まれた長い髪と曇り空とよく似た瞳の色が、冥国とは、違った民族である事を物語っていた。
「簡単に?捕まった?」
紫鳳は、術で固定された綱の下で、両腕を軽く重ね、両肘を両脇に軽く引いた。緩む筈のない、綱は、紫鳳が力をほんの少し、入れただけで、千々に切れてしまった。
「!」
国王シンと側近のシャーマンは、思わず顔を見合わせていたが、紫鳳の次の行動で、安心する事になった。
「初に、お目にかかります」
紫鳳は、片手を胸に、膝まずく。
「おや?」
予想しない反応に、国王シンは、身を乗り出す。
「冥国の使者として、参りました。此度の戦は、当主は、望んでおりません。このままでは、両国の無辜の民の死者が数多出るかと思われます。どうか、我が主人、瑠璃光と停戦の話し合いをお願いできないでしょうか?」
側近のシャーマンは、そっと国王シンの顔を横目で見る
「ふむ」
国王シンは、若い面差しには、似合わない顎髭を撫で上げる。
「我らの土地は、痩せた土地で、貧困に喘いでいる。戦をせねば、餓死する民が出る。それは、どう考える?」
「侵略のための戦さですか?」
紫鳳は、顔を上げる
「侵略で、得た土地は、また、他国の侵略で、奪われます。どうか、我が主人と話し合い、活路を見出してください」
「今まで、何度か、使者を差し向けたが、何の返事もなかった。今回は、お前だけの判断ではなかろう」
「はい。主に、直接、話す為に故意に拉致されるよう、仰せ使いました」
「主とは?誰か」
アルタイ国王シンは、改めて尋ねた。現王朝の風蘭は、傀儡ではないか。先王の御子は、行方しれずと聞いている。その皇子が帰ってきたと言うのなら、話し合う余地はあるが、側近の成徳は、信じられない。直接、側近の式神が会いに来たのなら、話し合う価値は、あるのではないか。
「直接、会う事はできるのか?」
「内密であれば」
成徳に知られれば、邪魔されてしまう。内密に話を進めなければいけない。
「では、お前に機会を与えよう」
国王とて、交渉なしに死者を出す訳にはいかない。自分から、交渉に動いた瑠璃光を信じてみる事にした。
「よく、来た」
相変わらず、拘束されたままの紫鳳は、壇上にいる深く足を組み、両腕を肘掛けに乗せた若い王に目を向けた。
「本陣は、もぬけの殻と聞いていましたが、そうでも、なかったんですね」
紫鳳はそう言う。
「逃げる必要はない。空からの侵入を防ぐ術はしてある」
アルタイ国王のシンは、そばにいる怪しげな男の横顔を眺める。
「随分と簡単に捕まった様だが」
瑠璃光に似たその姿をアルタイ国王は、上から見下ろしている。外見は、自分よりは、幼く見えるが、相手は、式神故、見た目の年齢と姿は、比例しない。主の瑠璃光に似せて造られたと聞いているが、瑠璃光と会った事はないが、半妖と聞いて想像していたのとは、違う。龍神の娘の子と聞いていた。さぞかし、人間離れした容貌かと想像していたが、紫鳳の面差しから、察するに、人間離れしているとしたら、面差しが女性に近いという事だった。アルタイ国王のシンも、先王が、数ある美女の中から、選んだ母親から生まれただけあり、草原の戦士の割には、面差しは整っており、深く編み込まれた長い髪と曇り空とよく似た瞳の色が、冥国とは、違った民族である事を物語っていた。
「簡単に?捕まった?」
紫鳳は、術で固定された綱の下で、両腕を軽く重ね、両肘を両脇に軽く引いた。緩む筈のない、綱は、紫鳳が力をほんの少し、入れただけで、千々に切れてしまった。
「!」
国王シンと側近のシャーマンは、思わず顔を見合わせていたが、紫鳳の次の行動で、安心する事になった。
「初に、お目にかかります」
紫鳳は、片手を胸に、膝まずく。
「おや?」
予想しない反応に、国王シンは、身を乗り出す。
「冥国の使者として、参りました。此度の戦は、当主は、望んでおりません。このままでは、両国の無辜の民の死者が数多出るかと思われます。どうか、我が主人、瑠璃光と停戦の話し合いをお願いできないでしょうか?」
側近のシャーマンは、そっと国王シンの顔を横目で見る
「ふむ」
国王シンは、若い面差しには、似合わない顎髭を撫で上げる。
「我らの土地は、痩せた土地で、貧困に喘いでいる。戦をせねば、餓死する民が出る。それは、どう考える?」
「侵略のための戦さですか?」
紫鳳は、顔を上げる
「侵略で、得た土地は、また、他国の侵略で、奪われます。どうか、我が主人と話し合い、活路を見出してください」
「今まで、何度か、使者を差し向けたが、何の返事もなかった。今回は、お前だけの判断ではなかろう」
「はい。主に、直接、話す為に故意に拉致されるよう、仰せ使いました」
「主とは?誰か」
アルタイ国王シンは、改めて尋ねた。現王朝の風蘭は、傀儡ではないか。先王の御子は、行方しれずと聞いている。その皇子が帰ってきたと言うのなら、話し合う余地はあるが、側近の成徳は、信じられない。直接、側近の式神が会いに来たのなら、話し合う価値は、あるのではないか。
「直接、会う事はできるのか?」
「内密であれば」
成徳に知られれば、邪魔されてしまう。内密に話を進めなければいけない。
「では、お前に機会を与えよう」
国王とて、交渉なしに死者を出す訳にはいかない。自分から、交渉に動いた瑠璃光を信じてみる事にした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
寒がりな氷結眼鏡魔導士は、七匹のウサギとほっこり令嬢の温もりに癒され、愛を知る
ウサギテイマーTK
恋愛
伯爵家のミーヤは、動物の飼育と編み物が好きな、ちょっとおっとりした女の子である。婚約者のブルーノは、地味なミーヤが気に入らず、ミーヤの義姉ロアナと恋に落ちたため、ミーヤに婚約破棄を言い渡す。その件も含め、実の父親から邸を追い出されたミーヤは、吹雪のため遭難したフィーザを助けることになる。眼鏡をかけた魔導士フィーザは氷結魔法の使い手で、魔導士団の副団長を務まる男だった。ミーヤはフィーザと徐々に心を通わすようになるが、ミーヤを追い出した実家では、不穏な出来事が起こるようになる。ミーヤの隠れた能力は、次第に花開いていく。
☆9月1日にHotランキングに載せていただき感謝です!!
☆「なろう」様にも投稿していますが、こちらは加筆してあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる