皇帝より鬼神になりたい香の魔道士

蘇 陶華

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妖の姫、息を呑む

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 ビュービューと風を切る音が耳に痛い。不完全な体で、紫凰は、青龍の剣に体を任せていた。上や下へと不規則に、空を切る。阿と吽は、慌ててついて来るのがやっとの事の様に、剣の付ける光の矢を、追いかけていた。
「いい加減。。」
腕が、疲れてきた。
「紫凰!」
吽は、目を見張った。壊れた映像の様に、紫凰の姿が、様々な式神の姿に変わっていた。それは、不規則で、虎の尾や鳳凰の翼等、体に一部が、現れたり、消えたりしていた。まだまだ、式神としても、不完全。だが、何かが、発動しようとしていた。
「ねぇ。。気づいてた?」
やっとの思い出、追従している阿が、紫凰に追い付きながら、言った。
「ただ、力のバランスが悪くて、飛んでいるだけかと思ったら」
「うん。。。。」
ただ、空を闇雲に切りながら、飛び回っているだけと、思っていたが、青龍の剣の飛び回る痕には、細い筋が、付いており、妖の空に、何やら絵文字を描いていた。闘う剣ではない。使う者の身を守る剣。不穏な色に染まる空に、青龍の剣は、自ら、印を結び始めていた。
「紫凰!」
黄熟香の香が、空一杯に広がった。鼻の奥に、何とも言えないむせる香が広がった。軽く目眩を覚え、紫凰は、体の向きを変えた。いや。。変えることが出来た。やたらと、紫凰を空中に引き摺り回していた青龍の剣は、動きを沈めていた。激しいリズムで、動いていたが、印の形が出来上がったのか、青龍の剣は、紫凰の身を預けようとしていた。
「来る!」
瑠璃香同様、紫凰も、鳥肌が立つのを感じた。空気の中に、細かい稲妻が、走り、全身が、軽く震えた。
「召喚しやがった!」
阿が、吐き捨てるように、呟いた。瑠璃香と別な位置で、紫凰は、幾つもの首を持つ神獣が現れるのを、空の上から、見下ろしていた。
「紫凰!」
青龍の剣を持つ手が、震えた瞬間、背筋を何かが、走っていた。瑠璃香が召喚している。神獣を召喚したのは、真下にいる人とは、言い難い者。式神、紫凰は、瑠璃香に召喚されず、青龍の剣の作った印の向こうにおり、眼下に現れた神獣を見下ろしていた。
「意味なさないじゃん!紫凰」
式神でありながら、瑠璃香の召喚が届かない。瑠璃香は、白虎の剣を召喚していた。神獣に自ら立ち向かおうとしているのが、見える。黄熟香の香は、一段と増し、むせ返えるようだった。この真下の塔から、細く黄熟香の香は、立ち上り、神獣は、それに刺激を受けるかのように、興奮し、奇声を上げた。
「随分と、揃いましたわね」
塔の中で、玉枝御前は、満足そうに呟いていた。黄熟香は、真っ直ぐに立ち上がり、百鬼の妖は、その香に酔っていた。
「もうすぐ、手に入るのかね」
紗々姫は、狂喜していた。手に入れたいのは、神獣ではない。
「香は、天と地を結ぶもの」
白虎の剣を召喚した瑠璃香にも、紗々姫の姿は、見えていた。何としても、紗々姫を制御したいところだったが、目前に、神獣に裂けて口が迫っており、紗々姫の所まで、飛べない。紫凰を召喚しようにも、何故か、青龍の剣が、結んだ印が邪魔をして、召還できないでいた。
「反抗期か!っていうの」
瑠璃香は、袖から、何枚ものの札を、取り出し、矢のように、投げつけた。空に触れると、幾つもの矢に変わり、神獣の口に消えていった。
「紫凰!ここからは、働いて、もらうぞ」
印を結んだ瑠璃香は、白虎の剣を、青龍の剣が、結んだ中央に突き刺した。白い稲妻が、空一面に広がり、やがて、印は、吸い込まれるように消えていった。
替わりに、翼と長い尾を持つ、紫凰が、姿を現した。もはや、不完全な姿ではなかった。
「ここからは、任せたぞ」
そう呟くと、瑠璃香は、真下の塔へと降り立っていった。
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