89 / 93
亡き父親の面影
しおりを挟む
蒼は、自分のバイオリンの代わりに入っていた古ぼけたバイオリンを見ていた。
年代を感じるが、綺麗に手入れされていた。
「随分、丁寧に手入れしているんだ」
古くて、いったいいつの物かは、わからない。
ただ、持ち主が、大事にしている事はわかった。
それにしても、気になるのは、ケースにあるサイン。
「S」
偶然なのか、自分のバイオリンケースと同じ場所にある。
ケースだけなのか。
そう思ったが、中に入っているバイオリンは、地味でも、いい値段の物である事に、間違いはなかった。
弾いてみようか。
蒼は、思った。
どうせ、たいした音色は、出せないだろう。
蒼は、たかを括った。
が、
弾いてみると、それは、予想を上まった。
音色が、思ったより良い。
それに、初めてとは、思えないほど、手に馴染んだ。
「えぇ?」
なんだろう。この感覚。
蒼は、このバイオリンで、ライブに出るしかないと思っていた。
慣れないバイオリンで、出るのは、不安があったが、これなら、行けると、思い始めていた。
「間に合わないよな」
そう思い、携帯を見つめた。
先ほど、逢った榊とその娘が、思い当たる所をあたってくれると言っていた。
多分、あの花屋。
父親の墓に送る花を選びに立ち寄った。
記憶を辿る。
あの店に居た客達。
ライブの出演者に送る花を買い求める女性達。
年配の親子。
バスケットを持った女の子。
そして、若い男性。
確か、似たようなケースを持っていた。
後ろ姿しか、見ていないが、線の細い男性だった。
多分、その時だ。
この手入れされたバイオリンをその人も探しているだろう。
榊さん達が、見つけてくれればいいが。
そう、思った時に、携帯が鳴った。
「見つかった?」
思わず、葵は、聞いた。
が
「それが・・・」
萌は、重い口調だ。
「急に、父が、持病の発作を起こしてしまって」
心臓が悪いのは、聞いていた。
海外での不摂生が祟って、狭心症を患っていた。
「急に、具合が悪くなって、病院に来ているの」
「そう・・・なんだ」
どうやら、このバイオリンで、出演するしか、ないようだ。
「・・でね」
躊躇いながら、萌が切り出した。
「パパが、何か、言いたい事があるみたいなの」
「言いたい事?」
「よく似ている人を知っているみたいなの」
「似ている人?って・・・誰に?」
「蒼君、お兄さんとかいなかった?」
「お兄さん?僕に?」
葵は、心臓が飛び跳ねるの感じた。
「いや・・・僕は、一人っ子だけど・・」
「そうよね・・」
「どういう事?何を根拠に?」
「聞き出そうとしたけど、もう、眠ってしまったの」
自分に、兄がいる話は、聞いた事はない。ただ・・・。母親と出会う前に、父親には、恋人がいた話を昔、聞いた事がある。母親は、その陰に、心を悩ませていた事があった。一緒にいても、心は、どこか、遠くにあるようだと。
「話、聞きたいです」
もう、バイオリンの事は、どこかに、消えてしまっていた。
もしかしたら・・・。
蒼の心は、揺れていた。
年代を感じるが、綺麗に手入れされていた。
「随分、丁寧に手入れしているんだ」
古くて、いったいいつの物かは、わからない。
ただ、持ち主が、大事にしている事はわかった。
それにしても、気になるのは、ケースにあるサイン。
「S」
偶然なのか、自分のバイオリンケースと同じ場所にある。
ケースだけなのか。
そう思ったが、中に入っているバイオリンは、地味でも、いい値段の物である事に、間違いはなかった。
弾いてみようか。
蒼は、思った。
どうせ、たいした音色は、出せないだろう。
蒼は、たかを括った。
が、
弾いてみると、それは、予想を上まった。
音色が、思ったより良い。
それに、初めてとは、思えないほど、手に馴染んだ。
「えぇ?」
なんだろう。この感覚。
蒼は、このバイオリンで、ライブに出るしかないと思っていた。
慣れないバイオリンで、出るのは、不安があったが、これなら、行けると、思い始めていた。
「間に合わないよな」
そう思い、携帯を見つめた。
先ほど、逢った榊とその娘が、思い当たる所をあたってくれると言っていた。
多分、あの花屋。
父親の墓に送る花を選びに立ち寄った。
記憶を辿る。
あの店に居た客達。
ライブの出演者に送る花を買い求める女性達。
年配の親子。
バスケットを持った女の子。
そして、若い男性。
確か、似たようなケースを持っていた。
後ろ姿しか、見ていないが、線の細い男性だった。
多分、その時だ。
この手入れされたバイオリンをその人も探しているだろう。
榊さん達が、見つけてくれればいいが。
そう、思った時に、携帯が鳴った。
「見つかった?」
思わず、葵は、聞いた。
が
「それが・・・」
萌は、重い口調だ。
「急に、父が、持病の発作を起こしてしまって」
心臓が悪いのは、聞いていた。
海外での不摂生が祟って、狭心症を患っていた。
「急に、具合が悪くなって、病院に来ているの」
「そう・・・なんだ」
どうやら、このバイオリンで、出演するしか、ないようだ。
「・・でね」
躊躇いながら、萌が切り出した。
「パパが、何か、言いたい事があるみたいなの」
「言いたい事?」
「よく似ている人を知っているみたいなの」
「似ている人?って・・・誰に?」
「蒼君、お兄さんとかいなかった?」
「お兄さん?僕に?」
葵は、心臓が飛び跳ねるの感じた。
「いや・・・僕は、一人っ子だけど・・」
「そうよね・・」
「どういう事?何を根拠に?」
「聞き出そうとしたけど、もう、眠ってしまったの」
自分に、兄がいる話は、聞いた事はない。ただ・・・。母親と出会う前に、父親には、恋人がいた話を昔、聞いた事がある。母親は、その陰に、心を悩ませていた事があった。一緒にいても、心は、どこか、遠くにあるようだと。
「話、聞きたいです」
もう、バイオリンの事は、どこかに、消えてしまっていた。
もしかしたら・・・。
蒼の心は、揺れていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる