星渡る舟は、戻らない

蘇 陶華

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絡み合う運命の歯車とバイオリンケース

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差し出された手を重ねた榊は、何とも言えない、感覚に襲われていた。
「どこかで・・」
言いそうになって、口をつぐんだ。
逢っている訳ないか。こんなに若いんだ。
「一度、紹介したいと思っていたのよ」
萌の声は、弾んでいた。
「ほんの少ししか、時間がなかったの。無理して、来てもらったのよ。パパ」
「時間がないのか、すまないな」
無理してまで、逢いにくる事ないのに。
榊は、ふと思った。
丁度いい、逸材は、見つけてある。
自分がこれから先、一緒に仕事を行いながら、育てていきたい存在。
この子は、若すぎるじゃないか。
「一度、逢って欲しいの。」
萌にせがまれ逢っただけだ。
近くで、ライブがあるらしい。
その合間を縫って、合わせてくれたらしい。
「思っていたのよ。海にあった時。そう、あのシーイに逢った時、誰かに雰囲気、似てるなぁ・・って、思っていて」
萌の表情は、恋する乙女だ。
「海外で、一緒にライブをした事のある、この子に似てるって、思い出したの」
「全く、瞳の色も違うし、顔立ちも違うと、パパは、思うけどな」
「彼のバイオリンを聴いてみて」
鼻息の荒い萌に押し切られた。
こうして、逢って話をしてみると、萌の話が本当なのか、イメージがつかなかった。
持っているバイオリンケースがあるから、バイオリンを弾くのか・・・と思うくらいで。
「どうしても、逢ってくれと、萌姉さんに言われて」
「姉さん?」
榊は、吹き出した。
「いや・・・一緒にライブやった時に、何かと、お世話しちゃったみたいで」
萌は、笑った。
押し切る姉御肌は、海外でも、継続していた。
「日本語、上手だな」
榊は、感心した。
「父親の祖国が、日本なんです」
「日本?」
「父親もバイオリンは、弾いていたんですが・・・」
「お父さんて?あの」
榊は、体の中の血液が逆流するのを感じた。
「世界的バイオリニストで、若くして、この世を去った?」
「四条 光瑠の忘形見よ。パパ。逢いたかったでしょう?」
「えぇ?」
榊は、驚きと喜びで、一杯になった。
「彼には、たくさん、お世話になったんだ。まさか、日本で逢えるなんて・・・。まさかだよ」
「パパが、喜ぶと思って、日本に来たら、絶対、驚かせてやるって、決めていたの」
萌は、満足げだった。
「パパは、四条光瑠を、忘れた事がなかったからね」
「亡くなるには、早すぎたよ。彼は・・・」
そう言いながら、蒼の持っているバイオリンケースに目を落とした。
「もしかして、それは、彼の使っていたバイオリンケースかい?」
「はい。愛用していたケースを使っています。」
榊には、カースの上にある「S」のイニシャルに目を落とした。
「中のバイオリンを見せてくれないか?」
「いいですよ」
ケースを開けた瞬間、蒼の顔色が変わった。
「え?どういう事?」
ケースの中のバイオリンが全く、別の物に変わっていた。
「どうして?ケースは、同じなのに・・・」
榊と萌は、顔を見合わせた。
「ケースが2つ逢って、取り違えたんんじゃ・・・」
「いえ・・・。僕が、持っているのは、このイニシャルのケース、一つだけです。でも、よく見ると、このケースも、僕のじゃない」
蒼は、動揺していた。
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