星渡る舟は、戻らない

蘇 陶華

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毒蛾は、身近に粉を撒き、輝く

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澪が生まれた時、叔母は、とても喜んでくれた。
初めて歩いた時も、洋服を買いに出かける時も、叔母が一緒だった。
誰より、可愛がってくれている。
叔母を信頼していた。
父親の妹として、子供のいない叔母は、澪を可愛がってくれている。
そう信じていた。
叔母が、結婚するまで。
叔母が選んだ人は、親族達が、反対した人だった。
一言で言えば、顔だけの人。
売れない俳優で、舞台を観に行った叔母が、一目惚れした。
言わゆる才能のない紐見たいな男だった。
賭け事や投資は、当たり前、叔母の他に女性の姿がちらつき、それを知ってか、叔母は、次第に派手になっていった。
「別れなさい」
何度も、叔母の兄である父親が、助言するが、叔母は、聞き入れない。
周りが反対すれば、するほど、ムキになっていった。
「澪は、私の味方よね」
叔母は、よく、そう言っていた。
「えぇ・・・でも」
叔母は、やがては、夫となる年下の男性を心から、想っている。
そう感じてはいる。
叔母が、思っている人を澪は、反対できなかった。
が、澪が高校生の時に、その男性は、澪にも、牙を向けてきた。
「ご飯を食べに行かないか」
叔母抜きで、食事しに行こうと誘ってきた。
「でも、塾もあるし・・・」
当時、澪には、付き合っている男性がいた。
「彼氏と逢うの?」
「彼氏なんかじゃ・・・ないんです」
まだ。
と言いたかった。
「澪ちゃんは、意外と行動的なんだね」
「そんなんじゃ、ありません」
今でも、思い出すと吐き気がする。
あの時、彼氏が助けてくれなかったら、どんな目にあっていたのか、わからない。
叔母では、なく自分を狙っていたのかもしれない。
そう、思うと、ゾッとする。
視覚を失った今も、叔母夫婦が、実家に来ると、思わず、身をすくめてしまう。
「クズだよ。あいつは」
彼は、そう言った。
彼が、何を知ったのか、最後まで、言う事はなかったが、叔母の夫が、何か、隠し事をしていたのは、定かだった。
「まともな人ではない」
澪も、そう思っていた。
「新しい事業は、危険よ」
叔母は、何度も、澪に言っていたが、ある日、突然、考えを変えた。
「芸能事務所。立ち上げるの、手伝おうか?」
叔母は、ゆっくり、微笑んだ。
「澪ちゃん推しの人。プロにしてあげる」
その微笑みにゾッとした。
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