星渡る舟は、戻らない

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
61 / 104

バイオリニストの迷い

しおりを挟む
「まさか・・・そんな才能があったとはね」
榊は、娘に見せられたシーイの投稿を見て驚いていた。
「音楽のセンスは、あるとは思っていたが」
「ね・・・ちょっと、普通のバイオリニストとは違うなって、思っていたの」
「私の娘は、そんな先見の目があったのかな」
「もう、聞いていて感じなかったの?パパ。耳障りのいい声をしていたわ」
「そうか・・・バイオリンしか、興味がなかったからな」
「彼は、入団テストに落ちたから。パパが、拾ったって聞いたわ」
「落ちた?」
榊は、笑った。
「落ちたんじゃない。落としたんだ」
「まさか?」
榊は、頷いた。
「大勢の中の一人にするなんて、勿体無いよ。僕が、育てようと思った」
「パパ・・・彼は、バイオリンで、やって行こうとしてるって聞いたけど」
「そう、期待していたよ。バイオリンをどれほど、大事にしているかって」
遠い日の思い出が蘇る。
バイオリンの為に、全てを捨てた男の後ろ姿を。
「パパ。彼を諦めていいの?」
萌は、海の事が気になって仕方がない。
バイオリンだけでは無く、シーイの歌声を知ってから、余計に気になっていた。
「私なら、バイオリンだけでなく、ピアノと一緒に歌を披露してもらいたい。彼を手放したくない」
「だけど。萌。我々は、彼と契約しないって、決めただろう?今頃、彼には、たくさんの事務所が押しかけているさ」
「パパは、彼にバイオリンを弾いて欲しいんでしょ」
「そうだよ。」
「弾いてもらおうよ」
「そうだな」
そう、返事をしながら考えた。
海が、これから、巻き込まれる事に。
「せっかくの才能が、壊れる前にだよ。パパ」
萌が、意味深に言っていた。

本当なら、澪の撮影を最後まで、見届けてから、帰りたかった。
澪の後輩達が、帰路の準備を行い、一時的に、通行止めが解除されたのを待って、僕と寧大は、人早く、帰る事にした。
それは、寧大の打ち明けた借金の事だった。
「助けてほしい」
僕が、肩代わりできる借金ではなかった。
寧大は、投資が好きで、最初は、順調だったが、途中から、負けが続き、返済できないまでに、膨らんでいた。
それに輪をかけたのが、僕と同じ声を持つ音夢の一件だった。
有名な俳優の娘さんだった。
未成年を連れ去ったとして、立件は、免れたが、慰謝料を請求される始末となっていた。
「だから・・・女には、気をつけろって」
「気の迷いだ。お前と同じ声だから、興味があっただけだ」
寧大の屈折した愛情は、僕に向けられていたが、寧大の借金問題を解決するのが先だった。
「会って欲しい人がいるんだ」
「会って欲しい人?」
それは、音夢の父親だと寧大は言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約破棄を訴える夫候補が国賊だと知っているのは私だけ~不義の妹も一緒におさらば~

岡暁舟
恋愛
「シャルロッテ、君とは婚約破棄だ!」 公爵令嬢のシャルロッテは夫候補の公爵:ゲーベンから婚約破棄を突きつけられた。その背後にはまさかの妹:エミリーもいて・・・でも大丈夫。シャルロッテは冷静だった。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

処理中です...