星渡る舟は、戻らない

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
25 / 131

彼を語る声は、何色?

しおりを挟む
シーイに逢える事。
迷いながら、決断したのに。
直接、逢える事は、叶わないようだ。
目の前に、現れたのは、黒いマスク姿の、ウェーブがかった髪を後ろで、一つにまとめた男だった。首の伸び切ったTシャツの上に、羽織ったパカーも、くたびれていて、あまり、人目を気にしないのかと、訝しんでしまう。
「どうも」
男は、軽く会釈した。
こういう場には、慣れていないのか、えらく無愛想だ。
「ごめんなさい。見ての通り、視覚での情報は、得意でないから」
澪は、おどけて見せた。
自分に視覚障害がある事を知ると、みんな、遠慮してしまう。
声の感じからすると、そんなに、世間離れした雰囲気はないが、同室のスタッフの雰囲気が戸惑っているのが、わかる。
「今回は、聞いている通り、うちのサロンのCMを出すという事で、シーイさんの歌声を入れたいと思って。。」
高岡の声がしどろもどろで、相手の雰囲気に戸惑っているのが、わかる。
「所で、肝心のシーイさんは?」
上擦った声を後輩が上げる。
「ズームでのお話でいいですか?」
寧大と名乗った男が話す。
声は、樹木の様な色ね。
澪は、クスッと笑ってしまった。
別に、おかしい訳ではない。
シーイが、若葉色だから、相棒の青年が、樹木と言うのが、うまい具合に、バランスが良い。
仲が良いのか、生まれながらのコンビなのか。
澪の反応に寧大が、怪訝な顔をした。
「ちょっと、都合が悪くて、間に合わなかったんです。遠方に奴は、居まして・・」
寧大は、タブレットを開いた。
「今回は、これで、参加で」
画面の中には、首から下だけの、自称シーイが座っているのが見えた。
寧大と同じような服装をして、椅子に座っている。
「失礼だが、本物ですか?」
「・・・と言うのは?」
高岡が、画面の中のシーイが、少し、幼く見えて、確認したのだ。
「どうすれば、信じてもらえますか?」
寧大は、高岡に聞いた。
「偽者騒動があったとしても、あの声がシーイの者なら、同じでは?」
寧大は、その声が同じなら、誰でも、シーイだと言いたい様だ。
「試して見ますか?」
寧大は、画面の中のシーイに、歌ように言った。
「聞いてください。彼の声ですよ」
画面の中で、シーイは、YouTubeで、寧大と作り上げた詩を歌い上げていく。
「えっと・・」
高岡は、画面に見入りながら、片手で、画像の検索を始める。
後輩達は、音を録りながら、画面に食いつく。
「確かに・・・シーイよね」
「確かに・・・」
スタッフが、画面から流れて来る声が、シーイの物である事を認めようとしていた。
寧大が、少し、笑った様な気がした。
「違うわ」
部屋の空気を凍りつかせる声が響いた。
澪だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

君が奏でる部屋

K
恋愛
 これは、君に伝えたくて残している。  幼なじみで、生徒だった彼女の本心は長い間知らなかった。聞きたくても聞けない、伝えたくても伝えられなかった頃の想い出。彼女が産まれた時から好きだった。彼女に初めて歌った曲、聴かせた曲……。そして、成長した彼女はコンクールに出場し、望外の結果となる。  やがて僕達は、先生と生徒ではなく恋人としての関係を構築していく。彼女はおとなしくても人形ではない。家族や友人との関わりを通して、人間として音楽家として成長していく。芸術を追究する幸せと苦悩。今まで以上に、彼女と音楽に向き合っていく日々。  夢を叶えた僕は、彼女の夢を叶えることにした。彼女の夢は、僕の想像していないことだった。ピアニストを目指す日常と、音楽と愛を綴った物語。  

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...