星渡る舟は、戻らない

蘇 陶華

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その声が、道標ですか?

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僕にとって、花子とは。
バイオリンとは。
課題曲は、死の舞踏。
難易度が高い。
花子が、心配するのは、勿論、僕に足りない表現力を、知っているから。
公園は、闇に包まれ、街灯がオレンジに光るだけ。
欧州のガス燈とは、程遠いが、僕のイメージが高まる。
「まずは、お前の名前を考えないとな」
寧大が言った。
「お前の耳障りの言い声から、考えてたんだ」
「俺の声?女みたいな声で、昔から好きでないんだよな」
「もったいないな」
「なんて、考えてた?」
「お前は、海だから、sea。シーだろう?それで、お前の声は、音だから、seaの音。韻を踏んで。シーイ。どうだ?」
「シーイ?変」
「なんでだよ。色々考えたんだぞ」
「ますます、女ぽい」
「それが、お前の個性」
個性か・・・。僕は、呟く。課題曲は、難しい。
夜中に、墓場に現れた死神が、バイオリンを弾く。骸骨の踊る不気味なワルツ。
今の僕の心情だろうか。
僕には、表現力が足りない。このままの実力では、合格も程遠い。
「僕の気持ちの行く先が墓場並みだよ」
少し、奏でても、すぐ、躓く。
課題曲、そのものが、僕には、ハードルが高い。
「歌なら・・・」
歌なら、得意?僕は、笑った。誰も、いないのに。僕の得意な歌。
寧大の作った曲に合わせて、即興で、歌う。
別れた後に知った、恋人への思いの歌。
どこかで、聞いたような内容だけど、歌での表現は、僕には、できる。
指先で、表現できないバイオリンの響きが、歌に変わる。
濃密な夜の闇の、隠れるように僕は、場所を忘れて、歌ってしまった。


その声が、何処から流れてくるのか、澪は、わからなかった。
庄津的に家を飛び出していた。
明かりを避けるように、夜の公園に逃げ込む。
昼間は、穏やかだった空間が、闇に包まれると、一転して、未知の恐怖へと変わる。
目に見えなくても、昼と夜の空気の違いが、肌に突き刺さる。
引き返そうか?
澪は、迷った。
このまま、家に帰りたくない。
自分は、結局、あの家の道具でしかない。
彼と離れて、自分の居場所は、ますます、なくなってきた。
自分は、この先、どうなるのか。
あの時に、自分の魂は、、死んでしまったのだから、今更、何も、変わらない。
遠くから、アポロンの声がする。
探しにきてくれたのだろうか。
そのアポロンの声に混じって、どこかで、聞いた事のある歌声が聞こえてきた。
「この声は?」
淡い初夏の若葉の様な色を持つ、この声。
コップに注いだ泡が弾ける感じ。
「シーイ?」
シーイが、近くに居る?
澪の鼓動は、高まっていた。
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