死神の守人

蘇 陶華

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手負いの神獣

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僕が、目の前で起きた衝撃的な事を受け入れられなくていた頃、瑠眞は、黄泉路の奥に、灯りを手にしたまま、じっと一点を見下ろしていた。視線の奥には、巨大な怪鳥が横たわっており、息も絶え絶えだった。時折、発する声を哀しみに満ちており、思い出したかのように、動かす羽音は、そこに彼が、存在している事をかろうじて知らしめていた。
「もう少しだから」
非情な瑠眞にしては、珍しく、怪鳥の様子を心配している。見下ろす怪鳥は、生き生きと輝いていた頃とは、変わり、あちこちと、羽毛は、抜け落ちて禿げ、火傷を負ったのか、あちこち皮膚が裂けていた。黄金の鱗に覆われた両足も、力無く投げ出され、開いた指が、力無く震えていた。
「もう、飛ぶ事はできない」
怪鳥の目が、瑠眞に訴えていた。
「私に、構うな」
「そういう訳には、行かない」
瑠眞は、そっと怪鳥の顔に頬を寄せた。
「きっと、助ける」
僕は、瑠眞が何者かは、まだ、知らなかった。沙羅を冷たく突き放し、命運さえ奪い取ろうとする瑠眞に守りたい物があるなんて、気が付きもしなかった。市神は、自分の悲運を嘆いて、自らを消滅させてしまった。勇ましくもあり、ずるくもあった。利用されたかもしれないが、自分で選んだ宿命から逃げてしまったのだから。
「残ったのは、あなたね」
三那月は、笑った。
「私達は、勝算がなくてきた訳ではないの」
「随分、自信があるのね」
沙羅は、冷静だった。
「ここで、引き下がる訳には行かないのよ。大勢の信徒達の未来がかかっている」
「蓮をどうするつもりなの」
「蓮?」
三那月は、誰?という顔をしたが、すぐ、あぁと言う顔になった。
「それは、答えによるわ」
優しく微笑まで、浮かべている。
「素直に、私達と一緒に行動するなら、何もせずに、このまま、戻るわ。だけど、そうでないなら」
「そうでないなら」
沙羅は、今にも、手元から鎌を振り翳しそうだった。
「みてごらんなさい」
三那月が、指し示したのは、地上界だった。多くの人達が、ひざまづき、口を大きく開け、喘いでいる。口の中からは、白い息のような塊が出たり、入ったりしているのが、見えた。
「いつの間に?」
沙羅の顔色が変わった。
「転生の鍵を持つあなたでも、これはできないわよね」
三那月が強う握った掌を開くと、中から、日切潰された紅い食魂華の花びらが舞い落ちていった。
「簡単に、神にもなれる。けど。普通の人達が、取り込んでしまったら、どうなるかしら?」
魂が浮遊する状態になる。定まらず、沙羅の転生する力を持つ鎌でも、彷徨った魂は、元に、戻れない。
「信徒達は、龍神、蛇神となり、迦桜羅の力の元になれる。けど、普通の人は、そうではない。廃人になるだけ。そして、その魂は」
三那月が、軽く剣を振ると、剣は、高い金属音を発した。見る間に、剣先が青くほとばしり、嫌な殺気を帯びてった。
「無辜の魂が、あなたにとって、毒になる。」
「やめなさい。」
沙羅が、三那月に、飛び掛かっていった。
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