死神の守人

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
22 / 50

助かる為に、犠牲にする命

しおりを挟む
牛頭と馬頭は、黙って顔を見合わせていた。石棺の前には、大きめの黒いフードを被った女性が立っていた。仮面で、顔を隠してはいるが、沙羅と同じ匂いがする事は、わかっていた。
「ルールを守らないから、こうなるのよ」
静かに女は、言った。冷たく、感情のない声。沙羅も、冷たさの中に、凛としたものがあったが、その女には、残虐性さも感じる。
「あの。。。」
牛頭が、恐る恐る声を上げた。
「瑠眞様」
瑠眞と呼ばれて女は、冷たくも厳しい目を向けた。
「終わる命を狩るのには、紗羅様の何ていうか。。。ポリシーというか。。。がありまして」
瑠眞は、返事もせずに、手に持った細い鎌の刃先を向けていた。白い刃先が、牛頭の頬を撫でている。
「そんな事より、急がないと。沙羅様の身体が。。。」
馬頭は、叫んだ。意識朦朧とする沙羅の胸は、内側へと、向かい崩壊していっている。
「簡単な事よ。ここで、イエスといえば、力は貸してやる。その刃先を向けた男を殺すくらいのね。だけど、その為には、私達のルールに従って、狩るのよ」
「狩るって?」
沙羅は、うっすらと目を開けた。
「紗羅様!気がついたの?」
牛頭と馬頭は、身を乗り出していた。
「何をしろと?」
「決められた通りに、狩るの。冥府から、言われた通りに、」
「無理だわ」
沙羅は言った。
「生きられる人まだ、この世界で、役目を果たす人は、狩れない」
「なら、消えるのね。替わりは、いくらでも、いるんだから」
瑠眞は、沙羅に背を向けた。
「あちらの世界と、こちらが繋がってしまって、分別のつかない状態になっているの。沙羅。選んでいる場合ではない。黄泉に送りなさい。言われた通り」
沙羅の身体の状態を気にして、牛頭と馬頭は、もう、黙っていられないと、背を向けた瑠眞のマントの裾を掴んだ。
「私達が、やります。いくらでも、何人でも、魂を持ってきます。そうしたら、助けてくれますか?」
「あの医者を狩ればいいんですか?」
牛頭と馬頭の、申し出に、瑠眞は、ゆっくりと微笑んだ。
「そうね。今までの、帳尻を合わせてもらおうかしら」
「辞めて!」
沙羅は、叫んだ。
「私は、望んでいない。いつまで、こんな事をさせるの。牛頭。馬頭。命令よ。あなた達は、動いては、ならない」
瑠眞は、沙羅の首元に、鎌の刃先を突きつけた。
「なら、消えなさい。今すぐ!」
瑠眞は、沙羅の首元から、鎌を振り下げようとして、ある事に気づいていた。
「え?」
瑠眞の様子に、牛頭と馬頭も気づいて、沙羅の胸元を見つめた。
「止まってる?」
沙羅の崩壊が、止まっていた。
「これは?」
牛頭と馬頭は、顔を見合わせた。崩壊が止まっている。。。という事は、市神の身に何かが、起きた事を知らせていた。だが、沙羅の身体が、元に戻る訳ではない。何かが、起こり、一時的に、崩壊が止まっただけに過ぎない。
「何かが、起きたようね」
瑠眞は、遠くを訝しむように目を細めた。
「だからと言って、助かった訳ではない。誰か、若い魂を連れてきなさい」
沙羅の強い眼の前で、牛頭と馬頭は、動けないでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...