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私が輝くために、必要な物

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心陽h、ピアノのレッスン会場に居た。気も晴れない。コンサートも近いのに、やる気が出ない。ぼんやりと窓の下の景色を眺めているだけだった。
「元気ないのね」
「そう、見えますか?」
レッスンの為に迎えた先生も、心陽の前では、萎縮するばかりだ。教える事なんて、そうそうない。コンサートの成功のためにも、気を取り直して欲しい所だ。心陽のマネージャーにも、頼まれていたが、気に障ったら、面倒なので、顔色を伺うのみだった。
「年下なのに・・・」
そう思ったが、才能があるので、反抗できない。心陽葉、珍しく沈んでいた。感情の幅が豊かな分、落ち込むと手がつけられない。
「どうしたんですか?」
食事も喉に通らないようなので、マネージャーに聞く。
「知らなかったの?」
「え?」
「心陽の目指していたピアニストの・・・」
言いかけた所で、その名前は、有名らしく。
「あぁ・・。ニュースに出てましたね。でも、すぐ、釈放されるのでは?」
「だとしても、彼が、ピアノに向かわなけれが、心陽の夢は、叶わないのよ」
「事故で、弾けなくなって、引退したんじゃ・・」
「それでも、心陽は、彼の技術を真似たいのよ」
「そう簡単には、真似できないでしょ?感性の瀬愛なのだから」
2人の会話は、小さな声で行われていたが、次第に大きくなっていた。心陽は、一瞥を投げた。
「聞こえているわよ」
「すみません」
2人は、頭を下げた。だが、2人とも、もう聞こえているならと、心陽に話しかけた。
「離婚するって、本当ですか?」
「誰が?」
心陽は、聞いた。架が、莉子を離す訳がない。
「週刊誌の電子版に載ってましたよ。市長の娘とは、一緒にいられないだろうと」
「莉子と別れるの?」
それは、それで、複雑である。障害を持ち車椅子の莉子が、親とも夫とも離れて、生きていけるのか?
「別れたって、聞いています。心陽さん、市長の娘さんとお付き合いありましたよね」
「今もあるわ」
莉子の事は、心底、好きではなかった。親友と聞かれて、答えられない事もあった。だが、今の彼女が不幸になるのは、胸が痛くなる。
「ちょっと、出てくる」
莉子の事が心配である。側にあったテーブルの上にあったバックを掴む。
「ダメですよ!大事な日が近いんですから」
「莉子の様子を見てくる」
何もかも手にしていた彼女が、転落するのは、あまり好きではなかっただけに、小気味いいと思えるかと思ったが、そでもなかった。心配でしかない。架と離れた今、また、心配な友人の一人に戻りつつあった。
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