ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
93 / 106

翻弄される人

しおりを挟む
認めたくなかった事実。自分の右手が、ピアノを弾けなくたった事を告白していたら、治療を受け、リハビリをしていたら、もっと、別の人生だったかもしれない。莉子との結婚は、強引だった。復讐の為に、莉子を選んだ。
「少しだけ・・・」
架は、綾葉と話したいと思った。自分を待っていてくれたのは、綾葉だった。
「見た?」
莉子の父親のニュースを、見たら、次に何が起きるのか、予測がつくだろう。綾葉は、電話の向こうで、黙っていた。少し、啜り泣く声が聞こえてきた。
「もっと、現実を見ればよかった」
架は、後悔した。
「それでも、あなたでいる事に、変わらない」
「勝手すぎるよな」
「気付いてくれたならいい」
綾葉は、言葉を絞り出した。最初から、何もなかった。架は、自分の才能と引き換えに自分の地位を得た。
「待ってて、来れる?」
架は、恐る恐る聞いた。勝手な事を言っていると思う。子供の認知だけは、すると言って、自分の行き場がなくなったら、綾葉に行こうとしている。
「待ってる・・・いつまでも、待ってる」
「必ず、迎えに行くから、待ってて」
「待ってる」
ようやく、架が、振り向いてくれた。莉子ではなく、自分に戻ってくる。そうしたら、生まれてくる3人で、暮らそう。待ちに待った瞬間だった。綾葉は、電話を切ると、コンビニの前に立った。
「すぐ、お腹が空くのよね」
コンビニで買い物した荷物の確認をしてみた。色々、食べ物には、気を付けなくてはならない。信号待ちをしながら、買い忘れがないか、確認していた。教室の子供達にも、お菓子のプレゼントをしてあげよう。一緒にお祝いがしたい信号が、赤から青に変わり、人々が一斉に渡り始める。いつもより、人出が多かった。信号が変わった瞬間、人混みを避ける為に、少し、早めに横断し始めた。
「え?」
信号が、赤から青に変わったのに、止まりきれないバイクが一直線に走ってきていた。止まりきれず、驚いた様子で、こちらに向かってくる。
「あ!」
避けられる筈だった。ほんの一歩、後ろに居たから。だけど、止まりきれない誰かが、後ろに当たった。
「!!」
バイクの前に、飛び出す形になった。止まってほしい。ぶつかりたくない。一瞬、綾葉葉、自分のお腹を庇った。
「キャー!」
誰かが、悲鳴をあげた。バイクは、間一髪で、代わす事ができた。だが、無理な体制となり、思いっきり、前に転倒してしまった。
「大変だ。大丈夫か?」
遠くなる意識の中で、見覚えのある後ろ姿が見えていた。
「あれは・・・」
遠く見送る後ろ姿は、心陽。架を追いかける女性の姿が、視界の中に落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

現代版 光源氏物語

hosimure
恋愛
25年間、ひたすら真面目に地味に生きていたわたしはこの春、とんでもない所に部署移動しなければならなくなってしまった。 そこは女性社員ならば泣いて喜ぶ、『秘書課』! だけど私にとっては地獄! この部署移動の意味は…!?

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる

猫パンダ
恋愛
戦国一の美女と言われた、織田信長の妹姫、お市。歴史通りであれば、浅井長政の元へ嫁ぎ、乱世の渦に巻き込まれていく運命であるはずだったーー。しかし、ある日突然、異世界に召喚されてしまう。同じく召喚されてしまった、女子高生と若返ったらしいオバサン。三人揃って、王子達の花嫁候補だなんて、冗談じゃない! 「君は、まるで白百合のように美しい」 「気色の悪い世辞などいりませぬ!」 お市は、元の世界へ帰ることが出来るのだろうか!?

推しがいるのはナイショです!

いずみ
恋愛
水無瀬華は、会社では困った新人に振り回されながらも、社員の憧れのエリート五十嵐課長に頼りにされ、有能に仕事をこなしているOLだ。 ある日、男に絡まれているところを助けてくれた、謎の男、久遠。 口の悪い久遠に最初は腹をたててた華だが、彼が自分と同じ、アイドル『RAGーBAG』のファンだと知って少しだけ警戒をといた。 課長が気になっていたはずなのに……華の心は、強引な久遠に惑わされていく。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...