91 / 106
僕は、莉子の真実の姿を知らない
しおりを挟む藤井先生の退院も間近に迫り、僕と黒壁の準備も抜かりがなかった。莉子は、立位保持が、10秒は、可能になっていた。麻痺していた足裏の感覚を取り戻してからが、早かった。毎日、フラメンコで鍛えていた基礎体力が、戻ったのだろう。頭は、忘れていても、体が感覚を覚えていた。足先に感覚が、戻ってからが早かった。後は、筋力を作る食事を充実化し、筋トレを重視した。並行して行う可動域訓練。鍛えていた身体が目を覚まして、僕らの予想以上に、体が反応していった。
「莉子?」
スタジオでは、レッスンに参加し、疲労の度合いに合わせて、車椅子を使用し、足の練習も行なっていた。一緒に、レッスンすると、クラスの皆んなが、声を掛け、莉子は、その都度、笑顔で答えていた。
「莉子ちゃん!」
「莉子先輩!」
様々な呼び方で、莉子との関係がわかるなぁと、僕は、笑いたくなった。
「何、ニヤついているんですか?」
「いやね・・・みんな、莉子の事を知っているんだなと思って」
「そりゃぁ、知っているわよ。怪我するまで、ナンバー2って言われていたんだから」
「ナンバー2?莉子が?」
「何も、知らないのね?ただのお嬢様だと思っていたの?」
「フラメンコの練習生とは、知っていたけど」
「その程度?市長の娘と言うのは、皆、知っているけど。どちらかというと、フラメンコで、有名なのよ。うちら界隈では」
「そうなんだ」
僕が、莉子の事を、あまり知らなかった。車椅子に座り心許ない表情で、遠くを見つめていたあの姿しか。市長の娘ということで、災いに巻き込まれた事もあったけど、あまり、彼女の家庭の事は、知らなかった。
「莉子の事をよく知らないのね。」
そう言われて、ハッとした。夫の陰に隠れて、家の事情で結婚した莉子の事情を考える事がなかった。
「何を話しているの?」
他のスタッフと打ち合わせをしていた莉子が、僕らの会話に飛び込んできた。
「う・・・ん。意外と、僕は、莉子の事を知らないなぁって」
僕と話をしていたスタッフは、手で合図をしながら、その場を離れていった。
「私の事?過去の事を聞いても、仕方ないじゃない?」
「確かに、そう」
「でしょ?」
まだ、疲労感が強い莉子は、車椅子で、後輩の指導にあたる。腕の動きくらいは、指導できるそうだ。それに、スタジオ全体で、藤井先生にサプライズを用意していた。
「藤井先生の泣く顔を見ないとね」
みんなで、藤井先生にお披露目する曲目を選んでいるときに、2階の控室にいたスタッフが、顔色を変えて、教室に飛び込んできた。
「テ・・・テレビで・・・」
休憩の時間に何気なく、テレビを付けたら、ニュースが流れて来たそうだ。それは、莉子の父親の汚職の件だった。
「莉子?」
莉子は、驚く訳でなく、目を伏せてしまった。
「大丈夫?」
「えぇ・・」
「外に行く?」
僕は、心配して莉子を取り巻く中から、外へと連れ出す。
「全く、知らなかった訳ではないの」
「知っていたの?」
「知っていたというより。その可能性は、あるんだろうなって。そういう人だから」
「結婚も、君の父親が決めたんだろう?」
「そうよ。私の好意に、父親が乗っただけ。だけど・・・」
莉子は、僕を見つめた。
「大変。架の会社も巻きこむわ」
慌てて、携帯を探し始めた。
「莉子?」
スタジオでは、レッスンに参加し、疲労の度合いに合わせて、車椅子を使用し、足の練習も行なっていた。一緒に、レッスンすると、クラスの皆んなが、声を掛け、莉子は、その都度、笑顔で答えていた。
「莉子ちゃん!」
「莉子先輩!」
様々な呼び方で、莉子との関係がわかるなぁと、僕は、笑いたくなった。
「何、ニヤついているんですか?」
「いやね・・・みんな、莉子の事を知っているんだなと思って」
「そりゃぁ、知っているわよ。怪我するまで、ナンバー2って言われていたんだから」
「ナンバー2?莉子が?」
「何も、知らないのね?ただのお嬢様だと思っていたの?」
「フラメンコの練習生とは、知っていたけど」
「その程度?市長の娘と言うのは、皆、知っているけど。どちらかというと、フラメンコで、有名なのよ。うちら界隈では」
「そうなんだ」
僕が、莉子の事を、あまり知らなかった。車椅子に座り心許ない表情で、遠くを見つめていたあの姿しか。市長の娘ということで、災いに巻き込まれた事もあったけど、あまり、彼女の家庭の事は、知らなかった。
「莉子の事をよく知らないのね。」
そう言われて、ハッとした。夫の陰に隠れて、家の事情で結婚した莉子の事情を考える事がなかった。
「何を話しているの?」
他のスタッフと打ち合わせをしていた莉子が、僕らの会話に飛び込んできた。
「う・・・ん。意外と、僕は、莉子の事を知らないなぁって」
僕と話をしていたスタッフは、手で合図をしながら、その場を離れていった。
「私の事?過去の事を聞いても、仕方ないじゃない?」
「確かに、そう」
「でしょ?」
まだ、疲労感が強い莉子は、車椅子で、後輩の指導にあたる。腕の動きくらいは、指導できるそうだ。それに、スタジオ全体で、藤井先生にサプライズを用意していた。
「藤井先生の泣く顔を見ないとね」
みんなで、藤井先生にお披露目する曲目を選んでいるときに、2階の控室にいたスタッフが、顔色を変えて、教室に飛び込んできた。
「テ・・・テレビで・・・」
休憩の時間に何気なく、テレビを付けたら、ニュースが流れて来たそうだ。それは、莉子の父親の汚職の件だった。
「莉子?」
莉子は、驚く訳でなく、目を伏せてしまった。
「大丈夫?」
「えぇ・・」
「外に行く?」
僕は、心配して莉子を取り巻く中から、外へと連れ出す。
「全く、知らなかった訳ではないの」
「知っていたの?」
「知っていたというより。その可能性は、あるんだろうなって。そういう人だから」
「結婚も、君の父親が決めたんだろう?」
「そうよ。私の好意に、父親が乗っただけ。だけど・・・」
莉子は、僕を見つめた。
「大変。架の会社も巻きこむわ」
慌てて、携帯を探し始めた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。


職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる