62 / 106
対決
しおりを挟む
僕は、待合室で、待つ様に言われ、そのまま莉子を見送った。莉子は、硬膜下血腫が原因で、歩行が困難になった。今回の意図的な転倒で何かが起きているかもしれないとの考えもあり、すぐ、精密検査になった。本来なら、ライブの打ち上げで、したたかに酔うはずだった藤井先生も、セットしていた髪を、一つに結び直して、駆けつけて来た。
「どうしたの?」
慌てて、引っ掛けてきたワンピースのあちこちが乱れていた。
「意識は、はっきりしているけど。転倒しているから、頭調べるって」
「あぁ・・・そう。部屋で、転倒していたの?」
「不思議なんだけど。車椅子が壊れていた」
「壊れていた?あんなに丈夫なのに」
藤井先生の顔が曇った。
「誰かが、故意にって事よね」
「ですよね」
「夫?」
「真っ先に疑われるのは、そうでしょうね。莉子をそんな目に合わせて、何か、得があるのでしょうか?」
「夫だとしても、何も徳はないでしょうね。莉子のお陰で、今の仕事があるのだから」
僕は、聞いた。
「莉子を離す気はないんでしょうか?」
「どうしたの?ようやく、その気になったの?」
「・・・ていうか」
僕は、少し恥ずかしくなった。
「莉子の本当の姿を見てみたくて」
「本当の姿って?」
藤井先生は、誤解したみたいだ。
「そうなんじゃなくて・・・車椅子ではなく、普通に歩けて、普通に踊ったりできて」
「そうよね。そんな姿見てないものね」
藤井先生は、少し、寂しく笑った。
「あなたに、莉子を任せてみたいわね」
そこまで、言うと、藤井先生は、僕の手を取った。
「莉子には、とても耐え難い事があったの。細かくは、聞けなかったけど、とても耐えられない。夫から辛い事を言われたみたいよ。新先生。」
先鋭の手には、力がこもっていた。いつも、冗談を言って、冷やかしている先生ではなかった。
「莉子を奪いなさい。それが一時的でもいいの。莉子を本当の姿に戻して」
「そう思っていました」
待合室で、どのくらい藤井先生と話をしただろう。ふと、顔を上げるとスーツ姿の男性がこちらに向かって歩く姿が見えた。
「架君・・・」
藤井先生は、軽く会釈した。
「連絡が行ったみたいね」
僕は、眼鏡の奥で、冷たく光る目に縛り付けられていた。
「どうしたの?」
慌てて、引っ掛けてきたワンピースのあちこちが乱れていた。
「意識は、はっきりしているけど。転倒しているから、頭調べるって」
「あぁ・・・そう。部屋で、転倒していたの?」
「不思議なんだけど。車椅子が壊れていた」
「壊れていた?あんなに丈夫なのに」
藤井先生の顔が曇った。
「誰かが、故意にって事よね」
「ですよね」
「夫?」
「真っ先に疑われるのは、そうでしょうね。莉子をそんな目に合わせて、何か、得があるのでしょうか?」
「夫だとしても、何も徳はないでしょうね。莉子のお陰で、今の仕事があるのだから」
僕は、聞いた。
「莉子を離す気はないんでしょうか?」
「どうしたの?ようやく、その気になったの?」
「・・・ていうか」
僕は、少し恥ずかしくなった。
「莉子の本当の姿を見てみたくて」
「本当の姿って?」
藤井先生は、誤解したみたいだ。
「そうなんじゃなくて・・・車椅子ではなく、普通に歩けて、普通に踊ったりできて」
「そうよね。そんな姿見てないものね」
藤井先生は、少し、寂しく笑った。
「あなたに、莉子を任せてみたいわね」
そこまで、言うと、藤井先生は、僕の手を取った。
「莉子には、とても耐え難い事があったの。細かくは、聞けなかったけど、とても耐えられない。夫から辛い事を言われたみたいよ。新先生。」
先鋭の手には、力がこもっていた。いつも、冗談を言って、冷やかしている先生ではなかった。
「莉子を奪いなさい。それが一時的でもいいの。莉子を本当の姿に戻して」
「そう思っていました」
待合室で、どのくらい藤井先生と話をしただろう。ふと、顔を上げるとスーツ姿の男性がこちらに向かって歩く姿が見えた。
「架君・・・」
藤井先生は、軽く会釈した。
「連絡が行ったみたいね」
僕は、眼鏡の奥で、冷たく光る目に縛り付けられていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる