ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
60 / 106

疑惑

しおりを挟む
扉の隙間から見えた光景に僕は、声を失って飛び込んでいった。
「莉子?」
確か、心陽は、何でもないって言っていたよね。それすらも、嘘なのか?莉子は、車椅子から下に倒れ、その車椅子は、何故か、二つに折れていた。
「一体、どうして?」
僕は、倒れている莉子を抱え、何度も、声を掛けながら、息があるのかを確認した。声をかけると少しだけ、瞼が動く。浅いようだが、呼吸はある。幸いな事に、唇には、チアノーゼはなく、指先に冷感はない。
「莉子!莉子!起きて!」
車椅子から転落したにしては、どうして、こんな事に?硬膜下血腫の既往歴もあるから、事態は一刻を争う。
「あぁ・・・」
大きく呼吸をして、莉子は、うっすらと瞼を開けた。
「良かった・・・万が一もあるから、今、救急車を呼ぶから」
僕がバックから携帯を探し出そうとするのを、莉子は、そっと止めた。
「待って・・・」
頭を起こし、そっと壁にもたらせる。
「おかしな事がある」
「何が?」
莉子は、
「う・・・ん」
と言って、頭を振った。
「やっぱり心配だから」
僕が救急車を呼んでいる間、莉子は、自分の車椅子を指さす。
「変だと思わない?」
「変?」
指された車椅子は、床に転がっていて背もたれの部分が半分に折れていた。
「こんな簡単に壊れるものなの?」
僕は、車椅子の転がっている絨毯の上を丁寧に、指先で、探し回った。こんなに、不自然に車椅子が壊れる訳がない。まして、障害者用の車椅子だ。軽量かつ丈夫に出来ている。
「これって・・・」
指先に何かが、刺さるのを感じて、掴み上げると一本のボルトが光って見えた。
「これって・・」
莉子は、じっと僕の指先を見つめた。
「簡単に外れる物なの?」
「まさか」
救急車の音が近づいて来たので、僕は、莉子を抱え、マンションのホールまで、連れていった。
「こんな事今まであったの?」
「今まではなかったと思う」
たまたま、ボルトが緩んでいたのか?背もたれが外れて、莉子は、後ろから転倒していた。
「大丈夫だとは、思うけど、硬膜下血腫をやっているから、念の為、頭の中を見てもらおう」
「私、一人で、病院に行くの?」
僕は、言葉に詰まった。普通なら、ここで、夫に連絡すべきだろう。でも、何か、引っかかる事があった。
「僕も・・・ついて行くよ」
マンションの前に救急車が到着した。救急隊員に申し送りをする中で、莉子の保険証が必要になり、僕は、莉子に断って、部屋に戻り、保険証を探す事になった。
「人の家を探し回るのは、嫌なんだけど」
空き巣みたいに、莉子の部屋で、保険証を探し回る。その時に、僕は、通りかかったキッチンの棚の扉が開いているのが気になった。
「莉子は、届かないから仕方がないか」
そう思いながら、扉を閉めようとした時に、目に入ったのは、大量の薬袋だった。
「これって・・・」
たくさんの睡眠導入剤だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

現代版 光源氏物語

hosimure
恋愛
25年間、ひたすら真面目に地味に生きていたわたしはこの春、とんでもない所に部署移動しなければならなくなってしまった。 そこは女性社員ならば泣いて喜ぶ、『秘書課』! だけど私にとっては地獄! この部署移動の意味は…!?

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる

猫パンダ
恋愛
戦国一の美女と言われた、織田信長の妹姫、お市。歴史通りであれば、浅井長政の元へ嫁ぎ、乱世の渦に巻き込まれていく運命であるはずだったーー。しかし、ある日突然、異世界に召喚されてしまう。同じく召喚されてしまった、女子高生と若返ったらしいオバサン。三人揃って、王子達の花嫁候補だなんて、冗談じゃない! 「君は、まるで白百合のように美しい」 「気色の悪い世辞などいりませぬ!」 お市は、元の世界へ帰ることが出来るのだろうか!?

推しがいるのはナイショです!

いずみ
恋愛
水無瀬華は、会社では困った新人に振り回されながらも、社員の憧れのエリート五十嵐課長に頼りにされ、有能に仕事をこなしているOLだ。 ある日、男に絡まれているところを助けてくれた、謎の男、久遠。 口の悪い久遠に最初は腹をたててた華だが、彼が自分と同じ、アイドル『RAGーBAG』のファンだと知って少しだけ警戒をといた。 課長が気になっていたはずなのに……華の心は、強引な久遠に惑わされていく。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...