ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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僕が傷つけるのは、誰なのか?

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僕は、どうして、こんな無駄な時間を費やさなくては、ならないのか疑問だったし、莉子は、少し、疲れている様子で、不機嫌に見えた。藤井先生の
「誤解のないように、きちんと話したら?」
というアドバイスがあったので、渋々、このくだらない会話に付き合う事にした。莉子は、友人だと言うけど、僕から見たら、とても、友達思いの女性には、見えなかった。莉子のそばに居て、何か、獲物が落ちてくるのを待っている、そんな女性に見えた。
「彼女、知る人は、知るピアニストなのよ」
僕の空気を読んだのか、莉子が慌ててフォローした。
「そうなんだ」
彼女が誰だろうと僕には、関係ないが、その一言で、彼女と莉子の夫の繋がりが見えてきた。
「莉子の夫、架さんとは、コンクールで何度か、声をかけてもらった事があるんです」
関心のない事を、自慢げに話す。
「莉子の事を頼まれていて」
莉子の面倒を見てるのは、自分だと言いたいようだ。
「聞いた話によると、莉子の転落事故の時に最初に駆け付けたのは、君だと聞いていたけど」
それを言うと、彼女の顔色が変わった。
「それは、言わないで」
彼女ではなく、莉子が声をあげた。
「あれから、彼女は、トラウマになったらしく、気分が悪くなるみたいで・・・。ごめんね。心陽」
心陽は、吐き気があるらしく口元を抑えた。
「大丈夫・・・」
心陽が答えると、先ほどから、話をする機会を待っていた、七海が口を開いた。
「リハビリは、やはり、新でないと、ダメなのでしょうか?」
七海の心配事が、僕と莉子の間にあると察した心陽が、急に目を輝かせる。
「心配なの?どんな関係なの?ずっと、外から見ていたけど」
外で、見ていたと言われ、七海は、少し、気を悪くした。
「仕事以外も、働いているから、体が心配なだけです」
「心配する間柄なの?」
心陽は、莉子の腕に触れる。
「莉子。彼女のいる方を、独り占めするのは、良くないわ。架さんに言って、もっと、別なリハビリさんを頼んであげる」
「架は関係ないわ」
莉子は、強い口調で言った。
「藤井先生が、私の復帰を考えて、選んでくれたの。リハビリだけなら、誰でも、同じだけど、フラメンコを理解してくれるリハビリ師だって、先生が選んでくれたの」
莉子にしては、感情的だった。
「心陽。ありがたいけど。私。本当に良くなりたい。今まで、何をしてきたのか、時間だけ、過ぎてしまった事が悔やまれるの。ステージに戻りたい。何よりも、踊りたいの」
「あ・・・ごめん」
心陽は、小さな声で、謝った。
「架さんが、心配すると思って」
「そう思うなら、架には、黙ってて」
「え・・・う・・うん」
心陽は、何か、言いたそうだったが、渋々頷いた。
「それと・・・彼女さん」
莉子は、七海に向き合った。
「もう少しだけ、新さんを貸して欲しいの。必ず、立てるようになる。だから、あと少しだけ」
「少しだけですか?」
「もう少しで、立てると思う」
「リハビリだけですよね」
七海は、聞いた。他に、何があると言うのか?
「新の気持ちを利用しないで、くださいね」
七海は、そう言うと藤井先生が用意してくれた部屋を飛び出した。
「ちょっと!」
僕は、慌てて、部屋から飛び出す。
「七海!急に何を?」
追いつき、七海の腕を引き戻す。
「だって!わかるもん。新が、あの人を好きになっているって!」
「七海!」
「新が、あの人を見る目が違うの。わかる」
「だめだ!七海。言うんじゃない!」
七海の悲痛な声は、スタジオの廊下に響いていた。
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