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僕の心を捉える人
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純真なのか、気付いているのに、知らないふりをするのか、あの病院を抜け出して行った夜景の中で、
「子供ね・・・」
と言ったのに。挑発されたと思った莉子の態度は、今回は、何も見せず、無邪気に花火を見て、酔いしれている。僕は、緊張したり、どうしたらいいか、わからず、気が気でない常態で、眼下に広がる景色を見下ろしていた。
「余裕なんてないよ」
危うく莉子の体に触れそうになった僕は、いつも以上に緊張してしまった。藤井先生の圧力もあるが、これ以上、僕は、先に進めない。莉子の気持ちが、僕が七海を思うのと、同じだったら、先には進めない。莉子は、僕をどう、思っているのか?彼女の凍りついた感情を呼び覚ます事が、僕に、できるのか。藤井先生の思惑は、そう、うまくいかない。僕は、ため息をつきながら、車椅子を乗せるべく、リフトを降ろし始めていた。
「帰るの?」
「う・・ん。先生が心配するからね」
「そう。」
莉子は、短く答えた。
「本当は、立てるんじゃない?」
僕は、莉子に言った。先程の体の感覚から言って、全く、立てない麻痺の患者とは、全く違う。
「立てるの?私」
「立てるよ。立てないのが、わからない」
「もう、立てないと思っていた」
「どうして、そう思うの?」
「だって・・・手術の後の説明もそうだし、一緒に話を聞いてくれた心陽も、もう、車椅子だねって」
「心陽?」
莉子の友人と聞いている。レッスンの時にも、何度か、心陽の話を聞く事がある。
「ピアニストなの。私とは、違って、才能があって。結局、架とどちらが上なのか、わからないまま、架は、怪我で、弾けなくなって・・・」
「旦那さんは、もう、諦めてしまったの?」
「二度と、ピアノの事は、話さなくなったの。写真も、全部、捨ててしまって。どうしても、1枚だけ、部屋にあるやつだけ、残して、全て、処分したみたい」
運転しながら、莉子の表情を探ってみたが、夫が、怪我で、ピアノを諦めた事を悲しんでいるよ様子は、見られなかった。
「こんな事、聞いていいのか、わからないけど。莉子は、旦那さんの事が好きで、一緒になったの?」
「それを聞くのね」
莉子は、ため息をついた。
「みんなに、何度も、聞かれるうちにわからなくなってしまった・・・」
思い出すように、細い声で話す。
「確かに結婚したんだけど、一緒になった人は、別人だった」
「お付き合いしていたんじゃないの?」
「親が決めたの。何度か、お会いして。普通の人だと思っていた。だけど・・」
莉子を妻に迎えたけど、ただ、人形のように飾っておくだけだったと聞いた。彼女の感情を彼は、認めなかった。
「いつから、そんなに感情を押し殺すようになったの?」
「新先生こそ、どうして、そんなに、質問をするの?」
「そうだね・・・」
僕は、言おうか躊躇った。
「ステージに上がる本当の莉子が見たいと思って」
少し、気恥ずかしいセリフを言ってしまった。
「決めたって、言ったよね。その為に、先生も僕も、努力を惜しまないって」
結局、藤井先生のせいにして、僕は、本当の事が言えなかった。莉子の踊る姿を見てみたい。だけど、今の莉子ができるのは、ステージの片隅で、椅子に座りパルマを打つ事だけだ。
「莉子。僕を信じてくれる?」
思わず、そんな言葉が飛び出していった。
「必ず、ステージに立たせるから」
莉子の双眸が大きく見開かれたいく。僕は、莉子の黒目がちな瞳に吸い込まれそうになる。心臓が口から飛び出しそうだ。
「莉子も、応えて。」
僕の言葉が、莉子の気持ちに火をつけたのなら、藤井先生の思惑がうまく行った事になる。
「子供ね・・・」
と言ったのに。挑発されたと思った莉子の態度は、今回は、何も見せず、無邪気に花火を見て、酔いしれている。僕は、緊張したり、どうしたらいいか、わからず、気が気でない常態で、眼下に広がる景色を見下ろしていた。
「余裕なんてないよ」
危うく莉子の体に触れそうになった僕は、いつも以上に緊張してしまった。藤井先生の圧力もあるが、これ以上、僕は、先に進めない。莉子の気持ちが、僕が七海を思うのと、同じだったら、先には進めない。莉子は、僕をどう、思っているのか?彼女の凍りついた感情を呼び覚ます事が、僕に、できるのか。藤井先生の思惑は、そう、うまくいかない。僕は、ため息をつきながら、車椅子を乗せるべく、リフトを降ろし始めていた。
「帰るの?」
「う・・ん。先生が心配するからね」
「そう。」
莉子は、短く答えた。
「本当は、立てるんじゃない?」
僕は、莉子に言った。先程の体の感覚から言って、全く、立てない麻痺の患者とは、全く違う。
「立てるの?私」
「立てるよ。立てないのが、わからない」
「もう、立てないと思っていた」
「どうして、そう思うの?」
「だって・・・手術の後の説明もそうだし、一緒に話を聞いてくれた心陽も、もう、車椅子だねって」
「心陽?」
莉子の友人と聞いている。レッスンの時にも、何度か、心陽の話を聞く事がある。
「ピアニストなの。私とは、違って、才能があって。結局、架とどちらが上なのか、わからないまま、架は、怪我で、弾けなくなって・・・」
「旦那さんは、もう、諦めてしまったの?」
「二度と、ピアノの事は、話さなくなったの。写真も、全部、捨ててしまって。どうしても、1枚だけ、部屋にあるやつだけ、残して、全て、処分したみたい」
運転しながら、莉子の表情を探ってみたが、夫が、怪我で、ピアノを諦めた事を悲しんでいるよ様子は、見られなかった。
「こんな事、聞いていいのか、わからないけど。莉子は、旦那さんの事が好きで、一緒になったの?」
「それを聞くのね」
莉子は、ため息をついた。
「みんなに、何度も、聞かれるうちにわからなくなってしまった・・・」
思い出すように、細い声で話す。
「確かに結婚したんだけど、一緒になった人は、別人だった」
「お付き合いしていたんじゃないの?」
「親が決めたの。何度か、お会いして。普通の人だと思っていた。だけど・・」
莉子を妻に迎えたけど、ただ、人形のように飾っておくだけだったと聞いた。彼女の感情を彼は、認めなかった。
「いつから、そんなに感情を押し殺すようになったの?」
「新先生こそ、どうして、そんなに、質問をするの?」
「そうだね・・・」
僕は、言おうか躊躇った。
「ステージに上がる本当の莉子が見たいと思って」
少し、気恥ずかしいセリフを言ってしまった。
「決めたって、言ったよね。その為に、先生も僕も、努力を惜しまないって」
結局、藤井先生のせいにして、僕は、本当の事が言えなかった。莉子の踊る姿を見てみたい。だけど、今の莉子ができるのは、ステージの片隅で、椅子に座りパルマを打つ事だけだ。
「莉子。僕を信じてくれる?」
思わず、そんな言葉が飛び出していった。
「必ず、ステージに立たせるから」
莉子の双眸が大きく見開かれたいく。僕は、莉子の黒目がちな瞳に吸い込まれそうになる。心臓が口から飛び出しそうだ。
「莉子も、応えて。」
僕の言葉が、莉子の気持ちに火をつけたのなら、藤井先生の思惑がうまく行った事になる。
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