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さぁ、手をとって踊って見せて
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僕は、言いたい事は言えたのだろうか。相手を傷つけない様に、優しくするなんて、僕には、できなかった。七海の大事な時間を僕の為に、費やす事は出来ない。泣き出しそうな七海を置いて、冷たい僕は、莉子の待つ、スタジオへと向かった。
「準備は、出来ているわよ」
鼻息荒い藤井先生が現れた。
「莉子に火を付けるためなら、私は、何だってやるつもりよ」
「そんな・・・」
スタジオに着くなり、藤井先生に肩を掴まれた。
「若いんだから、後先、考えないの。あなたの仕事は、リハビリ。身も心も、元に戻すのよ」
レッスンの後なのか、藤井先生は、汗で、びっしょりだった。
「若い二人なんだから、遅くなってもいいのよ」
スタッフの一人が、僕の車に莉子を移乗してくれている。僕も、早く、手伝いたいが、スイッチの入った藤井先生は、熱く、自分の恋愛論を焚き付けてきた。
「新君。頼んだわよ。責任を取れとは、言わない。逆に、莉子が変わらなかった場合は、責任取ってもらう」
「そんな困ります」
「新君が、ダメなら、次の手を考えるまで」
「次の手って?何ですか?」
「手段は、選ばないわ」
不敵な笑いを残して、僕は、藤井先生に、運転席へと押し込まれた。エンジンをかけると、莉子が後ろから、おずおずと声を掛けてきた。
「あの・・・」
「あ・・待たせて、ごめん」
もう、頭の中に七海の事はなかった。ルームミラーで、見る莉子が、いつもと違う雰囲気だったので、思わず、振り返る。
「あれ?」
莉子が、恥ずかしそうに俯く。
「先生が、たまには、いいだろうって」
莉子の雰囲気がいつもと、違うのは、浴衣を着ていたからだった。他のスタッフの様に、レッスンのスカート姿ではなく、いつもは、動きやすい姿だったのに、今日は、髪を結い上げ、鮮やかな赤い色の浴衣を着せられていた。
「まさか・・・これも?」
「先生が・・」
「凄いな。藤井先生は」
僕は、思わず、呟いた。このまま、車を出さないでいると、また、乗り込んできそうだったので、莉子を凝視するのは、止めて、僕は、車を走らせる。
「大丈夫でしたか?今日は」
多分、莉子は、七海の事を聞いたのだろう。僕は、気が付かないふりをする。
「何が?」
「え・・と。混雑する所に行くから、車椅子の私では、大変じゃないかと」
「あ・・大丈夫」
僕が大変と言うより、車椅子の莉子が大変かと思った。花火大会は、皆、上を向いて歩く。足元は、不注意になり、莉子にとっては、危険だ。いくら、特別観覧席のチケットがあったとしても、往復は、負担になるだろう。
「疲れないかい?」
僕は、聞いた。レッスンの後、こんなに着付けされて、車に乗せられ、体に、負担がかかっている。
「みんなが、楽しみにしているから」
「藤井先生なぁ・・あの人は、悪だな」
「先生の通った後には、何も残らないって」
「そうだろうなぁ。エネルギーが凄いし。情熱的すぎる」
「だから、あんなに凄いステージができるのかなって」
「かもね。」
「私には、そのエネルギーがないって」
「う・・・ん。どうなんだろう。君の言葉の端端には、いつも、迷いがある」
「迷う?」
「自信がなさげと言うか・・」
「そうか・・いつの間にか、顔色を伺う癖がついちゃったのかな」
「顔色?誰の」
「それは・・・」
莉子が、答えに迷ってる間に、僕は、花火大会の会場とは、反対の国道へと、車を走らせた。
「考えたんだけど、花火大会が、よく見える場所があるんだ」
車椅子の彼女が、人の波に揉まれない場所。
「また、夜景が綺麗な外出なんて、言うんでしょう」
「違うよ。」
僕は、笑った。
「踊れる場所」
車は、僕の言葉通り、山の上の野外ステージへと向かっていった。
「準備は、出来ているわよ」
鼻息荒い藤井先生が現れた。
「莉子に火を付けるためなら、私は、何だってやるつもりよ」
「そんな・・・」
スタジオに着くなり、藤井先生に肩を掴まれた。
「若いんだから、後先、考えないの。あなたの仕事は、リハビリ。身も心も、元に戻すのよ」
レッスンの後なのか、藤井先生は、汗で、びっしょりだった。
「若い二人なんだから、遅くなってもいいのよ」
スタッフの一人が、僕の車に莉子を移乗してくれている。僕も、早く、手伝いたいが、スイッチの入った藤井先生は、熱く、自分の恋愛論を焚き付けてきた。
「新君。頼んだわよ。責任を取れとは、言わない。逆に、莉子が変わらなかった場合は、責任取ってもらう」
「そんな困ります」
「新君が、ダメなら、次の手を考えるまで」
「次の手って?何ですか?」
「手段は、選ばないわ」
不敵な笑いを残して、僕は、藤井先生に、運転席へと押し込まれた。エンジンをかけると、莉子が後ろから、おずおずと声を掛けてきた。
「あの・・・」
「あ・・待たせて、ごめん」
もう、頭の中に七海の事はなかった。ルームミラーで、見る莉子が、いつもと違う雰囲気だったので、思わず、振り返る。
「あれ?」
莉子が、恥ずかしそうに俯く。
「先生が、たまには、いいだろうって」
莉子の雰囲気がいつもと、違うのは、浴衣を着ていたからだった。他のスタッフの様に、レッスンのスカート姿ではなく、いつもは、動きやすい姿だったのに、今日は、髪を結い上げ、鮮やかな赤い色の浴衣を着せられていた。
「まさか・・・これも?」
「先生が・・」
「凄いな。藤井先生は」
僕は、思わず、呟いた。このまま、車を出さないでいると、また、乗り込んできそうだったので、莉子を凝視するのは、止めて、僕は、車を走らせる。
「大丈夫でしたか?今日は」
多分、莉子は、七海の事を聞いたのだろう。僕は、気が付かないふりをする。
「何が?」
「え・・と。混雑する所に行くから、車椅子の私では、大変じゃないかと」
「あ・・大丈夫」
僕が大変と言うより、車椅子の莉子が大変かと思った。花火大会は、皆、上を向いて歩く。足元は、不注意になり、莉子にとっては、危険だ。いくら、特別観覧席のチケットがあったとしても、往復は、負担になるだろう。
「疲れないかい?」
僕は、聞いた。レッスンの後、こんなに着付けされて、車に乗せられ、体に、負担がかかっている。
「みんなが、楽しみにしているから」
「藤井先生なぁ・・あの人は、悪だな」
「先生の通った後には、何も残らないって」
「そうだろうなぁ。エネルギーが凄いし。情熱的すぎる」
「だから、あんなに凄いステージができるのかなって」
「かもね。」
「私には、そのエネルギーがないって」
「う・・・ん。どうなんだろう。君の言葉の端端には、いつも、迷いがある」
「迷う?」
「自信がなさげと言うか・・」
「そうか・・いつの間にか、顔色を伺う癖がついちゃったのかな」
「顔色?誰の」
「それは・・・」
莉子が、答えに迷ってる間に、僕は、花火大会の会場とは、反対の国道へと、車を走らせた。
「考えたんだけど、花火大会が、よく見える場所があるんだ」
車椅子の彼女が、人の波に揉まれない場所。
「また、夜景が綺麗な外出なんて、言うんでしょう」
「違うよ。」
僕は、笑った。
「踊れる場所」
車は、僕の言葉通り、山の上の野外ステージへと向かっていった。
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