ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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一枚の紙に縛られない関係

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七海の発言にテーブルに居た人達の表情が一瞬、凍りついた。それは、僕と莉子の表情が、曇ったのが、わかった訳で、自慢げに話す七海に、周りの空気を読む事は出来なかった。
「あら、そう。おめでたいのね」
藤井先生が、お祝いの言葉を告げたと思った。が
「紙に縛られる関係なんて、私は、ごめんだわ。私はよ」
やんわりと話す。
「色々、事情がおありなんですね」
莉子が、僕に向かって言う。嫌味にも、聞こえる。
「おめでとうございます。新先生」
莉子に言われて、七海は、鼻の穴を膨らませて、僕の腕にしがみつく。
「七海。人前で、やめないか?初対面の人達に、関係ないし」
「今の所は、関係なくてもね」
藤井先生は、僕の側にくると、そっと手元のパンフレットを渡してきた。
「一人の人生を代える事になるわ。うちのスタジオで雇ってあげる。生徒達のボディメンテナンスと月崎 莉子をステージに立てるように、リハビリする事」
「ちょっと、先生。それは・・」
莉子が慌てて止める。
「彼には、今、勤務している病院もありますし・・それに」
「そう?休みくらいあるんでしょう。通えばいいわ」
「先生。彼には、彼女が」
藤井先生の、右眉が跳ね上がった。
「リハビリが、目的よ。このままでいいの?彼が、側にいる事で、復帰できるなら、投資はいとわないわ」
藤井先生は、真っ直ぐに僕と七海に向けて言い放つ。
「理学療法士なら、プロとして、最後まで、やり遂げるべきね。できる限り、時間を作って、うちで、リハビリを開始して。このまま、この子を置いて置けない」
七海も藤井先生の剣幕に、口を挟む暇がないようだ。
「いいかしら?」
莉子も、どうしたらいいか、言葉を失っている。他のスタッフも、あまり、勝手に口を開く事は、許されていないようだ。
「莉子。このまま、ダメになるつもり?全て、受け入れなさい」
藤井先生は、莉子の事が可愛いようだ。何としても、ステージに立たせたい気迫を感じる。
「わかりました。僕で、良かったら」
つい、僕の口から言葉が出てしまった。
「新!」
七海が、腕を引っ張る。
「仕事だよ。僕だって、治る可能性が、少しでもある人を放り出す事はできない。何処まで、できるか、やってみたいんだ」
彼女に会う方法で、リハビリを行う。あの病院で、僕が考えた方法で、試したい。「ありがとう。期待している」
藤井先生が、ようやく、口元を緩めてくれた。莉子は、複雑な顔で、僕らを見ている。
「さぁ、それでは、打ち合わせを始めるわね。渡した、パンフレットを見てちょうだい」
こうして、僕は、時間の合間を見て、フラメンコスタジオに通う様になった。勿論、そこには、七海が、現れる様になるのだが。
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