29 / 106
もう一度、歩き出すために。
しおりを挟む
夫の元に戻った莉子は、文字通りの駕籠の中の鳥であった。リハビリは、一日でも、休むと元に戻らなくなる。痛みに耐えながら、拘縮した筋肉を動かしていく。莉子の場合、硬膜化血腫が、原因で、下半身麻痺であった。手術は、良好で、リハビリを続ければ、立ち上がる程度までは、回復するだろうとの初見だったが、思うように、リハビリの成果が出なかった。血腫は、取り除けた筈である。心理的な事が、原因なのか、足先に反応はなかった。だから、莉子の両親も、腕がいいと聞けば、どこの病院にも、リハビリの為に、入院させていた。夫の架も、関心がない事もあって、入院してのリハビリに反対はしなかった。だが、今回、架は、何があった訳ではないが、新と莉子に疑いをかけ、自宅へと、連れ帰ったのだ。家事の何もかも、架が、行い、生活している莉子は、外部との接触もなく、人形と変わりなかった。
「気分転換に行くわよ」
連れ出してくれたのは、フラメンコの師匠、藤井だった。厳しさの中に、優しさとユーモアのある女性だった。
「何人か、スタッフも連れていくわ。実は、打ち合わせしたい事もあってね。連れ出しに行くから、待ってて!」
シングルマザーでもあって、心強い。藤井は、大きなSUVを運転し、莉子の前に現れた。
「なんて、酷い顔をしてるの?」
「酷い顔?」
「何が、あなたをそうさせたの?踊れない事なの?それとも?」
藤井は、どんな時でも、綺麗である様に団員達に伝えてある車椅子であっても、それは、変わらないと言うのが、彼女の持論だ。
「みんな、驚くわよ。莉子。」
藤井は、莉子の髪を手で、束ねると、
「ちょっと、失礼」
莉子のメイク道具で、顔を仕上にかかった。
「何があったの。リハビリをやめて、戻ってくるなんて」
「置いておけないって」
「いい先生に逢えたって、言ってなかった?」
新が担当になった事を、メールで藤井に伝えていた。もしかしたら、踊れる様になるかもしれないと。
「その先生と何かあった?」
莉子の目と藤井の目があった。
「やっぱり、そうなのね」
「いや・・・そうでなくて」
最後に、口紅を塗って、仕上げる。
「このままで、いいの?」
「何がですか?」
「私が、言う事ではないの。莉子が気づきなさい」
車の中で、待っていたスタッフが、莉子の体を抱え、車に座らせる。
「筋肉が、細くなて。少しでも、運動しないとダメよ」
莉子は、うなづきながら、車内での、他愛もない話を聞いていた。みんな、変わらなかった。次のステージをどうするのか、新しいギタリストが、ゲイだったとか、日常とは、かけ離れた話を交わしていた。
「莉子。踊るのよ。必ず、あなたの足を引っ張るのは、捨てちゃいなさい。私みたいにね」
藤井は、男っぷりも良く、運転し、他のスタッフの待つ、カフェに到着した。
「筋肉をつけろといいながら、言うのもなんだけど。ここのパンケーキ。美味しいのよ」
莉子を軽々と、車から降ろし、スタッフ達は、予約してきたテーブルへと案内していく。
「さて、今回は、こんなことになってしまったけど、莉子にも、出てもらおうと思ってね」
藤井は、突然、皆の前で、口を開いた。
「気分転換に行くわよ」
連れ出してくれたのは、フラメンコの師匠、藤井だった。厳しさの中に、優しさとユーモアのある女性だった。
「何人か、スタッフも連れていくわ。実は、打ち合わせしたい事もあってね。連れ出しに行くから、待ってて!」
シングルマザーでもあって、心強い。藤井は、大きなSUVを運転し、莉子の前に現れた。
「なんて、酷い顔をしてるの?」
「酷い顔?」
「何が、あなたをそうさせたの?踊れない事なの?それとも?」
藤井は、どんな時でも、綺麗である様に団員達に伝えてある車椅子であっても、それは、変わらないと言うのが、彼女の持論だ。
「みんな、驚くわよ。莉子。」
藤井は、莉子の髪を手で、束ねると、
「ちょっと、失礼」
莉子のメイク道具で、顔を仕上にかかった。
「何があったの。リハビリをやめて、戻ってくるなんて」
「置いておけないって」
「いい先生に逢えたって、言ってなかった?」
新が担当になった事を、メールで藤井に伝えていた。もしかしたら、踊れる様になるかもしれないと。
「その先生と何かあった?」
莉子の目と藤井の目があった。
「やっぱり、そうなのね」
「いや・・・そうでなくて」
最後に、口紅を塗って、仕上げる。
「このままで、いいの?」
「何がですか?」
「私が、言う事ではないの。莉子が気づきなさい」
車の中で、待っていたスタッフが、莉子の体を抱え、車に座らせる。
「筋肉が、細くなて。少しでも、運動しないとダメよ」
莉子は、うなづきながら、車内での、他愛もない話を聞いていた。みんな、変わらなかった。次のステージをどうするのか、新しいギタリストが、ゲイだったとか、日常とは、かけ離れた話を交わしていた。
「莉子。踊るのよ。必ず、あなたの足を引っ張るのは、捨てちゃいなさい。私みたいにね」
藤井は、男っぷりも良く、運転し、他のスタッフの待つ、カフェに到着した。
「筋肉をつけろといいながら、言うのもなんだけど。ここのパンケーキ。美味しいのよ」
莉子を軽々と、車から降ろし、スタッフ達は、予約してきたテーブルへと案内していく。
「さて、今回は、こんなことになってしまったけど、莉子にも、出てもらおうと思ってね」
藤井は、突然、皆の前で、口を開いた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる