10 / 106
君とは、リハビリ会議の後で。
しおりを挟む
七海を何とか、宥めて、新幹線に乗せた僕は、帰宅した後も、莉子の事が気になっていた。その場で、莉子の口から聞きたかった事は、黒壁が、長いLINEを送ってきて、嫌でも、知る事になった。奴は、得意げだった。何でも、莉子の事は、知っているとばかり、僕に報告してくる。僕の知りたくもない情報を黒壁は、どうやって、知り得たのかを交えながら、報告してくる。結局、莉子は、自分で、リハビリをしたかったらしい。人の目を避けたかったと。立ちあがろうとしたが、立てる訳がなく、ブレーキの掛けていない車椅子は、あらぬ方向に行ってしまい、床に倒れ込んでしまった。運悪く、背中から、落ちてしまい、気を失ったとの事だった。
「また、頭でも、打ったら、俺の今までの苦労が無駄になる。でも、その分、一緒にいる時間が長くなるかな」
なんて、平気で言うから、腹が立つ。僕は、変わらず高齢者の廃用症候群のお兄様やお姉様のリハビリに、携わり、高齢のお姉様には、下を向いた瞬間に、頬にキスされたり、散々な日々を送っていた。そんなある日のカンファレンスだった。莉子のリハビリの成果が、なかなか上がらないとの話が出た。黒壁を非難する訳では無いが、看護師の嫉妬心もあって、担当を変えてみたらどうかとの話になった。
「ここまで、積み上げたのが、無駄になります」
黒壁は、反対した。が、早く成果を出したい莉子の両親の声もあり、担当を変える事になった。
「誰が、合うかな?」
主治医は、リハ担当者全員の顔をぐるっと眺めた。
「そうだな・・・最近、成果を上げてきた・・・」
「俺?」
一瞬、主治医と目が合ったので、慌てて逸らした。隣のリハ師が、僕の肩を叩いた。
「爺さん、婆さんのアイドルの出番だよ」
「は?」
僕は、変な声をあげてしまった。爺さん、婆さんのアイドルというより、黒壁から担当を取り上げる事で、嫌な風当たりが強くなるのを避けたかった。
「新!やってみろ」
「は・・・・い」
「どこかの垂らしより、平和ボケしている新を試してみるのも、いい結果を出せるかもしれない」
「先生?」
主治医の後に、看護師が続けて言う。
「新も、なかなかだと思います。彼女さんらしき人が差し入れに来てました」
「え?」
一斉に、全員の目が僕に注がれる。
「東京駅で買ったケーキ、頂いたんです。あんなケーキ。若い娘しか買いません」
余計な事を言う。看護師安達。僕は、処分に困り、ナースSTに置いたのが、間違いだった。
「彼女もちか・・・。羨ましいな。まぁ、そういう事だから、早速、今日から頼むよ」
主治医は、むくれる黒壁に引き継ぎを済ませるように、告げると、会議は、お開きとなった。
「全く・・・彼女持ちとはね」
「彼女ではなく、幼馴染です」
「ふ・・・ん。あちらも、旦那持ちだよ」
黒壁は、不満そうにカルテを取りに出ていった。
「また、頭でも、打ったら、俺の今までの苦労が無駄になる。でも、その分、一緒にいる時間が長くなるかな」
なんて、平気で言うから、腹が立つ。僕は、変わらず高齢者の廃用症候群のお兄様やお姉様のリハビリに、携わり、高齢のお姉様には、下を向いた瞬間に、頬にキスされたり、散々な日々を送っていた。そんなある日のカンファレンスだった。莉子のリハビリの成果が、なかなか上がらないとの話が出た。黒壁を非難する訳では無いが、看護師の嫉妬心もあって、担当を変えてみたらどうかとの話になった。
「ここまで、積み上げたのが、無駄になります」
黒壁は、反対した。が、早く成果を出したい莉子の両親の声もあり、担当を変える事になった。
「誰が、合うかな?」
主治医は、リハ担当者全員の顔をぐるっと眺めた。
「そうだな・・・最近、成果を上げてきた・・・」
「俺?」
一瞬、主治医と目が合ったので、慌てて逸らした。隣のリハ師が、僕の肩を叩いた。
「爺さん、婆さんのアイドルの出番だよ」
「は?」
僕は、変な声をあげてしまった。爺さん、婆さんのアイドルというより、黒壁から担当を取り上げる事で、嫌な風当たりが強くなるのを避けたかった。
「新!やってみろ」
「は・・・・い」
「どこかの垂らしより、平和ボケしている新を試してみるのも、いい結果を出せるかもしれない」
「先生?」
主治医の後に、看護師が続けて言う。
「新も、なかなかだと思います。彼女さんらしき人が差し入れに来てました」
「え?」
一斉に、全員の目が僕に注がれる。
「東京駅で買ったケーキ、頂いたんです。あんなケーキ。若い娘しか買いません」
余計な事を言う。看護師安達。僕は、処分に困り、ナースSTに置いたのが、間違いだった。
「彼女もちか・・・。羨ましいな。まぁ、そういう事だから、早速、今日から頼むよ」
主治医は、むくれる黒壁に引き継ぎを済ませるように、告げると、会議は、お開きとなった。
「全く・・・彼女持ちとはね」
「彼女ではなく、幼馴染です」
「ふ・・・ん。あちらも、旦那持ちだよ」
黒壁は、不満そうにカルテを取りに出ていった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
大好きな推しを追いかけておっかけから奥様になったあの子の話。
菜津美
恋愛
高校の頃に憧れたあの子。
わたしに生きる楽しみ(バンドのおっかけ)をくれたあの子が、急にいなくなってしまった。
彼らを追いかけていたら、いつかまた会えるんじゃないかと思って
わたしなりにあの子を探して
再会してから、あの子に聞いた、いままでの
彼女の最推しの彼と、彼女のお話。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる