ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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あなたが待っているもの

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さほど、僕は、莉子に興味がなったと思う。たくさん、いる患者さんの1人だったし、女性の多い職場にh、莉子より目立つ子は、たくさんいたし、地方の病院に、自分の恋人より、心惹かれる人は、いなかった。僕は、同じく関東から、引き抜かれてきた同期の黒壁と、他愛のない話をしながら、リハビリ室に向かっていた。その日は、黒壁が、莉子のリハビリ担当だった。
「どう思う?」
「・・・て?」
僕は、昼休憩の後だったので、コーヒー片手に、呑気にネットニュースを見ていた。
「105号室の・・・」
105号室と聞いて、僕の胸は、どきんとした。確か、莉子の部屋番号だ。
「旦那が、超官僚らしいけど、直接、面会に来た事がないんだって」
「直接?とは?」
「ナースSTに預けて行くだけだってさ。かなりのイケメンだって、看護師の青田が言っていた」
「青田かー。あいつの基準は、甘いからな。若い男で、スーツを着る奴は、みんなイケメンになる」
「青田だけでないぞ。師長も言ってて、差し入れに、ケーキを持ってきたりするから、人気者だ」
「うちって、差し入れ厳禁だろ」
「まあな・・・だけど、どうして、直接、遭わないと思う?噂じゃ、旦那が不倫旅行に行っている間に、倒れていたらしいぞ。しかも、見つけたのは、旦那に連絡を受けた別の女らしい」
「一体、どこから、そんな」
僕は、呆れて、空いたコーヒーのカップを投げつけそうになった。
「だから、お前は、ゴシップ好きの黒って、言われるんだ」
黒壁の情報源は、おそらく看護師だろう。芸能界のスキャンダルみたいに、どうでも、いい話を降ってくる。あながち、それは、無駄ではなく、リハビリに消極的な高齢のお兄様やお姉様を蘇の気にさせる。その莉子の夫と黒壁も、交友関係の広さで、考えるとどっちもどっちだけどな。黒壁の軽口を聞いているうちに、休憩は、終わり、僕らは、それぞれの受け持ちを迎えに行ったが、黒壁は慌てたように、廊下を行き来し始めた。
「どうした?」
僕は、担当のお爺さんの車椅子を押しながら、黒壁に声をかけた。
「部屋にいないんだよ。」
「部屋に?前は、ロビーで、人を待っていたのを見たけど」
「そこは、見た。あいつら、余計な事を書いておくから・・」
「誰が?何を?」
僕は、105号室に走っていった。
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