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1章

もう一度俺の家で合宿?

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「藍原くん。先生を誘惑するってどういうことなのかしら」
未知さんは冷静に淡々と詰め寄ってくる。

「じょうくん、やっぱり好きなのって杏子先生だったの?」
くるみはおれと別れたときのことを思い出したようだ。

「みっちー、くるみちゃん、ちがうの。
 先生が変なことを藍原くんに言っちゃったからなの」

「へんなことってなんですか?」
二人は口をそろえて杏子先生に突っかかる。

もうすでに未知さんとくるみは恋敵みたいになっている。
二人とも大人だから全面戦争にはならないが...

杏子先生は俺に話したことを二人にも話した。

「それは怖い...」
未知さんが嫌悪感をあらわにする。

「それでじょうくんがいっしょに住むなんて言い出したのね」
くるみは納得したようだ。

「藍原くんの話はありがたいんだけど
 やっぱり先生と生徒で同じ屋根の下はまずいしね。
 もうちょっと一人で頑張ってみる」
先生は気丈に振る舞っている。

おれは先生が震えていたことが脳裏によぎる。

「未知さんのところで同居するのはどう?」
くるみは施設で住んでいるから未知さんのところしかないと思い話を振ってみる。

「ごめんなさい。私の家もぼろアパートなの。
 それに姉もいるから難しいわ」

手詰まりだと思ったときにくるみが起死回生の一手を打つ。

「先生、じょうくんの家に泊まりましょう。
 それで私も一緒に泊まるから。
 それなら部活ってことにもなるし安心でしょ?」

「でもそこまでしてもらうのは...」

「私は1週間に一度施設に帰れば問題ないので
 外泊届でなんとかなります」

ここで未知さんが割り込んでくる。

「くるみさんだけでは部活になりません。
 部長の私も一緒に泊まります」

未知さんは杏子先生とくるみの二人を
俺の家に泊めるのが不安だったのだろうか。
ある意味二人とも俺に対して前科持ちだった。
これから何日も夜を過ごすのは見捨てておけないのだろうか。

「せんせい、みちさんもくるみもそう言っているので
 落ち着くまでは俺らに甘えてください」

「ありがとう、みんな。だいすきだよぉ」
目頭を熱くして鼻をすすりながら杏子先生は笑ってくれた。

そして今日からじんのもふくめて5人の共同生活が始まる。

先生は自宅に荷物を取りに帰った。
もちろん、くるみも未知さんも同じだ。

いつもの駅で再度集合して俺の家に行くことになった。

未知さんは小説でサスペンスも書いている。
それの影響なのか今回のことでみんなに駅で提案をした。

「ストーカーはしつこいはずです。
 杏子先生の新しい住まいは
 もうバレているかもしれません」

「まだ引っ越したばかりだよ?
 それにけっこう後ろも振り返るようにしてるけど……」

「ストーカーにとってそれは高いハードルでは
 ないと思います。バレずにそういうことができるから
 ストーカーなんです」

たしかに!とみんなが納得していた。

「そこで提案です。藍原くんの家がバレたら
 それはそれで面倒です。私たちで家に帰る時は
 二重尾行をしましょう」

「二重尾行ってどういうこと?」

「まず、この後、二手に分かれます。
 わたしと先生が藍原くんの家に向かって歩きます。
 藍原くんとくるみさんは違う方向に向かってください。
 そして少ししたらわたしと先生の道に戻ってください。
 ストーカーがいるなら私たちの間にいて
 同じ動きをするはずです」

「さすが未知さん!」
おれは未知さんの手を握って喜ぶ。

未知は顔を赤らめ目を横にそらすが
手に触れられて未知さんがドキドキしているのが
くるみと杏子先生には見て取れた。

「仮にストーカーがいてもむちゃしないでね。
 とくにじょうくん。
 男の子だからってむちゃはダメだからね」

「ストーカーは何をするかわからないから
 杏子先生の言う通りむちゃはしないように」
未知さんは杏子先生の言葉に付け加える。

俺とくるみはバイバイと手を振って
杏子先生と未知さんと別れた。

少し遠回りしていつもの自宅への道に出る。
先生たちとはだいぶ距離が離れた。

まだ駅から近いので通りを歩いている人は数人いる。

だんだん人気が減っていく。

1人すらっとした背の高い男性が
先生たちと俺たちの間にのこった。

先生たちは俺の家に行くまでの間くねくねと
道を曲がりながら行く手筈だ。

遠くの方で先生たちは道を曲がり始めた。
その背の高い男も道を曲がる。

ごくり、おれとくるみは間違いなくツバを飲み込む。
こいつの可能性が高い。

俺とくるみにも緊張が走る。
俺たちもバレてはいけない。
だからその男からは距離をとっている。

先生たちはまた曲がる。
男も曲がる。

「!!」
ほぼ確実だ。

男の顔を確認しなければ!

おれとくるみはお互い相づちをうち、
男に近づこうと足を早める。

先生たちは再度道を曲がる。
最初の大通りに戻る。

「!!!」
大通りに戻った瞬間、男が立ち止まる。
あたりをキョロキョロする。

俺とくるみはあと10歩ほどの距離だ。

男がこちらに振り向く。

サングラスにマスクで完全防備だ。
顔の特定ができない。

男は俺とくるみの顔を見た瞬間、逃げ出した。

「おい!まて」

おれは声をあげて追いかける。
先生と未知さんもこちらの異常事態に気づく。

その男は大通りの駅の方、すなわち先生たちも俺たちも
いない方へ逃げる。

おれはダッシュする。

「じょうくん」
先生とくるみの声が聞こえる。

無理しないでと言いたいのだろうが
せっかく見つけた相手だ。
顔だけでも見てやる!意気込んだ。

俺の方が足が速い。

おれはその男の肩に手をかける。
「おい!」

その男が振り返った瞬間、

「ゴンッ」

その男のパンチで俺は吹っ飛ぶ。
思いっきり顔を殴りやがった。

そのまま男は逃走した。

先生たちが俺の元に駆け寄る。

「大丈夫!?」
先生が顔を真っ青にしながら心配してくる。

「すいません。捕まえられませんでした」

「そんなことより藍原くんの怪我の方が心配」

「痛いですけど大丈夫です」

「先生、あの男に心当たりは?」
未知さんは相変わらず冷静だ。

「………ないかな」
先生は考え込んだあとそう答えた。

そして俺たちは俺の家に帰った。
その日の夜はストーカーと遭遇したこともあり
みんなのテンションは低めだった。
みんなでご飯を食べて、じんのと遊んで
そして風呂に入って寝た。

春休みみたいなハプニングはなかった。
少し期待してしまった自分もいるけど
さすがに状況が状況なだけにそういうことは起こらなかった。

そして次の日からあのストーカー男は姿を現さなくなった。
が、おれは停学3日間を言い渡される事件を起こしてしまう。
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