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1章
じんのは未知さんになつく
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「大きい家ね!藍原くんち」
杏子先生は驚きながら辺りを見回す。
「くるみちゃんは何度も来たことあるの?」
「はい。じょうくんの妹のじんのちゃんとよく遊んでいたので」
「そのじんのちゃんはどこにいるのかな?」
杏子先生は興味津々だ。
「知らない人は苦手でたぶん俺の部屋に隠れていると思いま
す。この前話したとおりじんのの状況は特殊なので」
「無理にとは言わないけどじんのちゃんと仲良くなりたいなぁ」
「一応、呼んできますね」
じんのは俺の後ろに隠れたままリビングに付いてきた。
おれの背中から顔だけでのぞいてみんなを見ている。
「じんのちゃーん、ひさしぶりー」
くるみが嬉しそうに声を掛ける。
じんのはくるみにだけコクコクと頭を縦に振って
返事をしている。
「じんの、こちらが俺の学校の先生だ」
「こちらは部活の先輩だ」
「じんのちゃん、初めまして。
七瀬杏子です。仲良くしてね」
杏子先生は子供の面倒見がいいオーラを出しまくっている。
俺はこれは杏子先生がじんのに逃げられて玉砕するだろうと心の中で思う。
「わたしは工藤未知」
相変わらず小さな声で淡々と話す。
じんのは見るだけで無反応。
「じんの、ほら、挨拶しなさい」
「あ、あいはら、じんの」
「『です』は?」
おれはじんのに優しく言葉を付け足すように促す。
「です」
「じんのちゃん、えらーい」
杏子先生は俺の背中のうしろのじんのの顔を
覗き込む。
すかさずじんのは隠れる。
杏子先生は少し残念そうな顔をした。
でも杏子先生は諦めない。
「じんのちゃん、お姉さんたちはお土産を持ってきたの。
みんなで一緒に食べない?」
みんながお土産を取り出す。
「じんのちゃん大好きくるみぱんだよ」
くるみが持ってきたのは隣町の美味しいくるみパン。
じんのはくるみパンが大好きだ。
理由は簡単だ。くるみがうちに来る度にそのくるみパンを
いつも買ってきてくれたからだ。
「杏子先生は美味しいケーキ屋さんのいちごのショートケーキだよ」
杏子先生はケーキ。いちごのショートケーキを人数分。
おしい!
いちごのショートケーキが好きなのは俺だ。
じんのが好きなのはチョコレートケーキだ。
俺は不安だ。杏子先生にはじんのがなつかないのではないかと思ってしまう。
「私は桜餅とおはぎです」
(未知さんは和菓子が好きなんだ。キャラっぽくてウケてしまう。着物着て抹茶とか立ててそうなキャラだな)なんてことを考えながらそのお土産を見る。
「あっ!」
思わず声が出る。和菓子屋『藍』の紙袋。
「どうしたの?じょうくん」
くるみがおれの反応を見て驚いた。
「いや、藍って和菓子屋さんのこと知ってたから
驚いただけ」
「じょうくん、和菓子すきだったっけ?」
くるみは何気ない顔で突っ込んでくる。
「最近興味があって今度買いにいこうかなーって」
「ここの和菓子屋は小さい頃から食べてるの。
味は保証するわ」
未知さんがほんの微かに誇らしげに話す。
「じんの、どれが食べたい?」
「くるみパン」
「じんのちゃん、それじゃ、くるみお姉ちゃんと食べようか」
「うん」
じんのはくるみには気を許している。
2人は楽しそうに他の人のことを忘れてリビングで
もぐもぐと食べ始めた。
杏子先生は寂しげだった。それでもめげない杏子先生。
じんのに絡みに行く。
じんのは迫られると迫られるだけ逃げようとする。
杏子先生にもじんのにも悪意はない。
おれもそこの輪にいないとじんのは不安になって
部屋に逃げてしまうので4人でくるみパンを食べることにした。
ダイニングではまわりを気にせず淡々と桜餅を食べる
未知さんが座っている。
俺もシルさんが食べている和菓子を食べてみたいが
じんのから離れるわけにはいかない。
杏子先生が頑張ってじんのに好かれようと努力し続ける。
ついにじんのが杏子先生の圧に耐えきれなくなったのか
4人の輪から離れた。
とことこと未知さんのところに歩いていった。
未知さんの向かいにちょこんと座った。
俺もくるみも杏子先生もキョトンとしている。
「これ食べていい?」
じんのは和菓子をのぞきこみながら未知さんに質問をする。
俺は目を疑った。
自分から話しかけるなんて奇跡が起こったのかと思った。
「いいわよ。お好きにどうぞ」
相変わらずわれ関せずで無関心に返答する。
じんのはおはぎを取り出す。手で掴んで頬張る。
「おいしいぃ」
「………」
未知さんは無反応だ。
「おねえちゃん、これおいしいよ。
おねえちゃんも食べたら」
「ええ、あとでいただくわ」
淡々と答える。
じんのはおはぎを食べ終えると桜餅を取り出した。
「ちょっと待ちなさい」
未知さんがじんのに話しかける。
未知さんはお手拭きでさっとじんののほおについたあんこを
ふいた。みちさんは存在が空気なのか流れるように何事もなかったかのように拭き取った。
じんのもなにも感じなかったようでされるがままで嫌そうな顔もしていなかった。
おれもくるみも驚いていた。じんのが初対面の人に懐くなんてことはなかったから。
杏子先生は未知さんにじんのを取られたことに対抗心を燃やしているようだ。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「………」
そして未知さんの無反応。
俺の推測はこうだ。未知さんが無反応すぎて
じんのの幼心にはこの人には害がない、木や石みたいに
ただそこにあるだけの存在に近いんだろうと思う。
6人掛けのダイニングテーブルでみんな座って
和菓子やケーキも食べる。
じんのとくるみは楽しそうに話している。
それでも杏子先生は仲良くなろうとむきになっている。
じんのも本当に嫌なら逃げるか泣くはずだから
杏子先生も許容範囲なんだろう。
それにしても杏子先生はこの中で懐かれ度1番にでもなりたいのだろうか。頑張っている。
じんのが懐かないせいで血迷ったのか、
杏子先生はこのあと恐ろしい言葉を発した。
杏子先生は驚きながら辺りを見回す。
「くるみちゃんは何度も来たことあるの?」
「はい。じょうくんの妹のじんのちゃんとよく遊んでいたので」
「そのじんのちゃんはどこにいるのかな?」
杏子先生は興味津々だ。
「知らない人は苦手でたぶん俺の部屋に隠れていると思いま
す。この前話したとおりじんのの状況は特殊なので」
「無理にとは言わないけどじんのちゃんと仲良くなりたいなぁ」
「一応、呼んできますね」
じんのは俺の後ろに隠れたままリビングに付いてきた。
おれの背中から顔だけでのぞいてみんなを見ている。
「じんのちゃーん、ひさしぶりー」
くるみが嬉しそうに声を掛ける。
じんのはくるみにだけコクコクと頭を縦に振って
返事をしている。
「じんの、こちらが俺の学校の先生だ」
「こちらは部活の先輩だ」
「じんのちゃん、初めまして。
七瀬杏子です。仲良くしてね」
杏子先生は子供の面倒見がいいオーラを出しまくっている。
俺はこれは杏子先生がじんのに逃げられて玉砕するだろうと心の中で思う。
「わたしは工藤未知」
相変わらず小さな声で淡々と話す。
じんのは見るだけで無反応。
「じんの、ほら、挨拶しなさい」
「あ、あいはら、じんの」
「『です』は?」
おれはじんのに優しく言葉を付け足すように促す。
「です」
「じんのちゃん、えらーい」
杏子先生は俺の背中のうしろのじんのの顔を
覗き込む。
すかさずじんのは隠れる。
杏子先生は少し残念そうな顔をした。
でも杏子先生は諦めない。
「じんのちゃん、お姉さんたちはお土産を持ってきたの。
みんなで一緒に食べない?」
みんながお土産を取り出す。
「じんのちゃん大好きくるみぱんだよ」
くるみが持ってきたのは隣町の美味しいくるみパン。
じんのはくるみパンが大好きだ。
理由は簡単だ。くるみがうちに来る度にそのくるみパンを
いつも買ってきてくれたからだ。
「杏子先生は美味しいケーキ屋さんのいちごのショートケーキだよ」
杏子先生はケーキ。いちごのショートケーキを人数分。
おしい!
いちごのショートケーキが好きなのは俺だ。
じんのが好きなのはチョコレートケーキだ。
俺は不安だ。杏子先生にはじんのがなつかないのではないかと思ってしまう。
「私は桜餅とおはぎです」
(未知さんは和菓子が好きなんだ。キャラっぽくてウケてしまう。着物着て抹茶とか立ててそうなキャラだな)なんてことを考えながらそのお土産を見る。
「あっ!」
思わず声が出る。和菓子屋『藍』の紙袋。
「どうしたの?じょうくん」
くるみがおれの反応を見て驚いた。
「いや、藍って和菓子屋さんのこと知ってたから
驚いただけ」
「じょうくん、和菓子すきだったっけ?」
くるみは何気ない顔で突っ込んでくる。
「最近興味があって今度買いにいこうかなーって」
「ここの和菓子屋は小さい頃から食べてるの。
味は保証するわ」
未知さんがほんの微かに誇らしげに話す。
「じんの、どれが食べたい?」
「くるみパン」
「じんのちゃん、それじゃ、くるみお姉ちゃんと食べようか」
「うん」
じんのはくるみには気を許している。
2人は楽しそうに他の人のことを忘れてリビングで
もぐもぐと食べ始めた。
杏子先生は寂しげだった。それでもめげない杏子先生。
じんのに絡みに行く。
じんのは迫られると迫られるだけ逃げようとする。
杏子先生にもじんのにも悪意はない。
おれもそこの輪にいないとじんのは不安になって
部屋に逃げてしまうので4人でくるみパンを食べることにした。
ダイニングではまわりを気にせず淡々と桜餅を食べる
未知さんが座っている。
俺もシルさんが食べている和菓子を食べてみたいが
じんのから離れるわけにはいかない。
杏子先生が頑張ってじんのに好かれようと努力し続ける。
ついにじんのが杏子先生の圧に耐えきれなくなったのか
4人の輪から離れた。
とことこと未知さんのところに歩いていった。
未知さんの向かいにちょこんと座った。
俺もくるみも杏子先生もキョトンとしている。
「これ食べていい?」
じんのは和菓子をのぞきこみながら未知さんに質問をする。
俺は目を疑った。
自分から話しかけるなんて奇跡が起こったのかと思った。
「いいわよ。お好きにどうぞ」
相変わらずわれ関せずで無関心に返答する。
じんのはおはぎを取り出す。手で掴んで頬張る。
「おいしいぃ」
「………」
未知さんは無反応だ。
「おねえちゃん、これおいしいよ。
おねえちゃんも食べたら」
「ええ、あとでいただくわ」
淡々と答える。
じんのはおはぎを食べ終えると桜餅を取り出した。
「ちょっと待ちなさい」
未知さんがじんのに話しかける。
未知さんはお手拭きでさっとじんののほおについたあんこを
ふいた。みちさんは存在が空気なのか流れるように何事もなかったかのように拭き取った。
じんのもなにも感じなかったようでされるがままで嫌そうな顔もしていなかった。
おれもくるみも驚いていた。じんのが初対面の人に懐くなんてことはなかったから。
杏子先生は未知さんにじんのを取られたことに対抗心を燃やしているようだ。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「………」
そして未知さんの無反応。
俺の推測はこうだ。未知さんが無反応すぎて
じんのの幼心にはこの人には害がない、木や石みたいに
ただそこにあるだけの存在に近いんだろうと思う。
6人掛けのダイニングテーブルでみんな座って
和菓子やケーキも食べる。
じんのとくるみは楽しそうに話している。
それでも杏子先生は仲良くなろうとむきになっている。
じんのも本当に嫌なら逃げるか泣くはずだから
杏子先生も許容範囲なんだろう。
それにしても杏子先生はこの中で懐かれ度1番にでもなりたいのだろうか。頑張っている。
じんのが懐かないせいで血迷ったのか、
杏子先生はこのあと恐ろしい言葉を発した。
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