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●REC
●REC<27>
しおりを挟む(でも、好きになりかけてることに気付かないフリしてた。……怖かったから。好きになっちゃったら、鏑木くんが私を好きな気持ちより私が鏑木くんを好きな気持ちのが圧倒的に大きくなっちゃいそうで……)
何度目かもわからない浮気をした彼氏を問い詰めているとき、セフレの人格を疑ってしまうようなクズすぎる発言や武勇伝を聞き流しているとき――。必ずと言っていいほど、私は鏑木くんのことを思い出していた。
『彼だったら絶対にこんなことしない』、『彼は冗談でもこんな風には言わない』と。
間近で彼の為人を知っていくうちに芽生え、育っていった幻想と言われればそれまでだ。
しかし、その幻想と並行して育っていったものがもうひとつあった。――そう。恋心だ。今なら確信を持って言える。いや、ようやく蓋をして閉じ込めていた気持ちを解き放つことができたと言うべきか。
曖昧な状態であえてラベリングせずにいた彼を想う気持ちは、思いの外重くて強くて大きかった。名付けた途端、数年分の自覚が一気に襲ってきた。
言うなれば、『部屋を散らかしていた原因物を無差別に放り込んで満杯にしていた押し入れを、自分がしでかしたことも忘れて何の気なしに開けてしまったときにも似た現象』が、たった今、私の身に起こっている。
雑多な押し入れの中身のごとく、好意のみならず嫉妬や疑心といった恋心にはつきものの感情たちまでもが胸中に雪崩れ込み、身体中を満たしていく。
(――――それで、私のほうがのめり込んじゃったあと、鏑木くんが私に冷めちゃったら……と思うと、やっぱり怖くて……。恋人としては始まらないまま――ずっと今のまま、自他ともに認める親友的なポジションでいたいと思って、逃げてただけだ…………)
少しでも口を開けば『好き』がとめどなく溢れ出してしまいそうで、意識して唇を引き結んだ。もしかしたら、己の不甲斐なさを恥じる気持ちのあらわれでもあったかもしれない。
(付き合っていつか別れちゃったとしても、友達に戻れるかもしれないのに。……まあ、そうなったら私のほうが『友達になんて戻れない』って関係断っちゃいそうだけど……。でも、そういうことじゃないじゃん。いくらなんでもそれは自分勝手すぎるって)
彼の気持ちだけでなく自分の気持ちに気付いていながら、告白を受け入れようとしなかった理由は、至って単純だ。変化を恐れていただけだ。
『異性間の友情は成立するか?』などといった文脈で語られる、あまりにチープなものだ。――その議論は大抵、『成立するはずがない』という結論に着地して恋愛至上主義を蔓延らせるための餌となる。
『かけがえのない友情をひとつ失う代わりに、恋愛という次のステージへコマを進めることが出来る。何が悪い? ハッピーエンドじゃないか』といったような。
私もまんまとそう思い込まされていたうちの一人だが、メリットよりもデメリットを重く捉えていたのは、鏑木くんとの縁が切れてしまうことを何よりも厭っていたからだ。
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