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●REC
●REC<10>
しおりを挟む「――――って、俺のことはいいんだよ! 何話してたっけな? えーっと……。ああ、そうだそうだ。副音声付けるかどうかって話だったね♡♡ どうする?♡ 付けてみる?♡」
しかし、うきうきと弾む彼の声を聞いていると、いくぶん気分も落ち着いてきた。
「んっっ♡♡ ……付けたら、どんないいことがあるの?♡♡」
最後の問いかけが官能的で、甘い声を上げてしまった。
「いいこと?♡ そうだねえ……♡ 紗世ちゃんにとって、いいことって言えるかどうかはわからないけど……♡♡」
彼はそう前置きする間に、身体をぴったりくっつけてきた。
「俺の解説付きでさっきの続き観ることに――……というか、俺が紗世ちゃんの可愛い耳の近くで好き勝手喋ることになるかも♡♡ 今みたいな感じで♡ 集中できなくなっちゃうかもだけど音量には注意するし、もちろん必要そうなとこだけに絞るけどね」
懇切丁寧な説明だ。妄想の余地がないでもなかったけれど、内容はきわめて真面目で――――。
だというのに、耳孔に直に感じる吐息のせいで。あるいは、あまりに好みな声のせいか、限界まで近付けられた身体の発する熱が移ってしまっているのか。私の身体は火照り、腋や首筋がじっとりと汗ばんでいる。
「あとは……そうだな。疑問とかあったら、その都度質問してくれていいよ。それはお喋りにカウントしないことにするから」
「鏑木くんの声聴いてられるのは嬉しいけど、説明が必要になるような内容なの?♡」
「ん~……。どうだろね?♡ そのへんは人によるんじゃない?♡ 紗世ちゃんは頭も勘もいいし、ないならないで別に不自由しないんじゃないかと思うけど、好きなほうにしな?♡♡」
彼の指が再生ボタンの上でタップダンスを踊っている。出来るだけ早く決断しないと。
「うーん……。じゃあ、なしで!」
「おー、意外だね? なくていいの? そのほうが俺は楽出来るけど」
踊っていた指が静止した。
「…………たぶんなんだけど、耳の近くで鏑木くんの声が聞こえてたら、目に映ってるはずのものも認識できなくなっちゃうと思うんだよね……!! せっかく観てほしいって言ってくれてるのに、ちゃんと観れないのは失礼だし……」
手を動かしながらの説明は、ちゃんと説明の体を保っていただろうか。
「へえ♡ 嬉しいこと言ってくれるね……♡♡ そこまで考えてくれてるなんて思ってなかったなあ♡ じゃあ、予定通り、ここからはお喋りは封印ってことで♡」
その疑問に答えるように、優しく手が添えられた。
「全部観終わったら、いっぱいお喋りしようね♡♡ 感想とか色々と……♡♡」
耳たぶに唇が掠めたのち、止まっていた時が動き出した。
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