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●REC
●REC<9>
しおりを挟む「やだ?♡♡♡ うん、そうだね♡ 俺もやだな。今日は絶対する気でいたし。……ってことで、紗世ちゃん自身のためにも、俺のためにも、これ終わるまで頑張って静かにしてようね?♡♡ お話はあとでたっぷり聞くし、質問にも全部しっかり答えてあげるからさ?♡」
彼は再生ボタンを押そうかというところで固まった。あたかも彼自身が映像の中の人物で、視聴者に一時停止ボタンを押されてしまったかのようだと思った。
「鏑木くん? 続き、観なくていいの?」
「…………でも、そうだよね。紗世ちゃんの声を当分聴けないのは、俺がつらいかな……。自分から言っといてあれだけど、副音声でも付ける?♡♡」
彼には私の問いかけが聞こえていなかったようで、ぶつぶつ呟いたあと、明るい声で付け足した。
「副音声?」
突拍子もない提案だ。鸚鵡返しした声には、ちょっぴり期待が浮かんでいた。上向きになった彼の気分が伝播したかのように。
「そう♡ 副音声♡♡ スポーツの実況とかであるじゃん♡♡ 裏で有名な人が試合の解説してたりするやつ♡」
彼はその単語のこの場における意味ではなく、概要の説明をし始めた。人によっては冗長だと感じるかもしれないけれど、私は彼の会話を面倒くさがらないところが好きだった。
「スポーツ観戦…………しないからなあ……。鏑木くんはよく観るほう?」
「俺? そこまでかな。どっちかというと、自分でするほうが好きだね。観戦し始めたら普通に感動するし応援もするけど、どっちかというと『俺もしたいな~』ってなる。料理番組とかもおんなじ。『うわ、おいしそう』って思うじゃん。でも、『食べたい!』じゃなくて『俺もあれ作りたい!』が先に来るんだよ。『食べたい!』はそのあとだね」
彼のことを少しでも詳しく知りたくて訊いてみたら、予想より遥かに多い情報が降ってきた。
聞き漏らしのないように急いで記憶したけれど、忘れてもまた訊けばいいし、彼もきっと快く答えてくれるだろう。
「そっかあ♡ ……えへへ♡♡ またひとつ鏑木くんのこと知れて嬉しい♡♡ 手先だけじゃなくて身体動かすのも好きなんだね?♡」
もっと早く訊いておくことも出来たけれど、これだけ同じ時間を共有してなお知らないことがたくさんあるというのも、なんだかとても贅沢なことのように思えた。
「…………いや、どうかな? 手先動かすのはめちゃめちゃ好きだけど、運動は……いや、嫌いではないけど、モノによるというか……。ああ、好きな女の子とエッチするのは大好きだよ?♡♡ ……でも、好きだからこそスポーツだと思いたくないし、思えないし」
照れる暇もなく、彼の声は真剣さを纏った。今、鏑木くんはどんな顔をしているんだろう。振り返るのが少し怖くなった。
「うん……。そっか」
好きでもない人とスポーツ感覚でしていた私を、彼は軽蔑しているかもしれない――――。胸の奥を突かれるような痛みから気を逸らしたくて、唇を噛んだ。
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