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“mellow time”~いつか夢で~
“mellow time”~いつか夢で~<21>
しおりを挟む「え? ……で、でも、沢田さんのことはなんとも思ってないよ? 個人的に会いに行ったりとかもないし!」
冷や汗がだらりと背中を伝い下りていった。
「へえ?」
首を動かさずに隣の彼を見た。口角はかろうじて上向きをキープしていたけれど、目元がちっとも笑っていない。
「ほんとだよ。鏑木くんに言われるまで、二回お名前呼んでたのも気付かなかったし……。ていうか、下の名前じゃなくて上の名前だし……。ていうか、私、沢田さんの下のお名前知らないし…………!」
弁明(彼に言わせれば、言い訳だったかもしれない)していくうちに少しだけ冷静になれた気がする。
(やきもち焼きなのは可愛いけど、なんとも思ってない人の苗字出しただけでこんなへそ曲げることある? 鏑木くんって、実はちょっとめんどくさいひと? ……まあ、他に欠点らしい欠点もないし、嫉妬も束縛も少しはされないと不安だしいいけど……)
それどころか、たとえ鏑木くんの気分を害してしまっていたのだとしても、私はそこまで悪いことをしていないということを再確認できた。
「……ふうん。そっか。まあ、いいけど。俺のこと、もう一回下の名前で呼んでくれたら許してあげる♡♡」
「ごめんね。…………千尋くん」
「いいよ♡ 紗世ちゃん♡」
(さっきはちょっと面倒かなって思ったけど、すぐに機嫌直してくれるの単純で可愛いかも♡ 付き合いは長いけど、友達のときは全然そういうひとだって知らなかったし……。私たち、本当に恋人同士なんだ…………♡♡)
私の名前を呼んだあとも持ち上がったままの口角を見つめて、ようやく実感が湧いてきた。
「やっぱり紗世ちゃんに『千尋』って呼ばれるの嬉しいな♡♡ ほんとは呼び捨てでもいいくらいなんだけど」
「……私も♡ 鏑木くんに『紗世ちゃん』って呼ばれるの嬉しい♡」
――――ただ、彼が私を下の名前で呼び出した時期ときっかけはいまだに思い出せていなかった。
(付き合い始めてから、対面でも文面でも結構な回数呼ばれてる……けど、鏑木くんが私を『紗世ちゃん』呼し始めたのって、すごく最近じゃなかったかな……?)
大したことではないのかもしれないけれど、私はずっとそのことが引っかかっていた。
(少なくとも、先週鏑木くんちにお泊まりする前までは『和泉さん』って呼ばれてた気がするんだよね……。考えすぎ? 他の人と勘違いしてる? でも、他の人の記憶と鏑木くんとの思い出が被るっていうのは……ちょっと考えにくいんだけど…………)
「じゃあ、これからもいっぱい呼ぶね♡♡」
そう宣言した彼は、カーステレオから流れてくる洋楽を口ずさむのに戻った。
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