119 / 272
“mellow time”~いつか夢で~
“mellow time”~いつか夢で~<21>
しおりを挟む「え? ……で、でも、沢田さんのことはなんとも思ってないよ? 個人的に会いに行ったりとかもないし!」
冷や汗がだらりと背中を伝い下りていった。
「へえ?」
首を動かさずに隣の彼を見た。口角はかろうじて上向きをキープしていたけれど、目元がちっとも笑っていない。
「ほんとだよ。鏑木くんに言われるまで、二回お名前呼んでたのも気付かなかったし……。ていうか、下の名前じゃなくて上の名前だし……。ていうか、私、沢田さんの下のお名前知らないし…………!」
弁明(彼に言わせれば、言い訳だったかもしれない)していくうちに少しだけ冷静になれた気がする。
(やきもち焼きなのは可愛いけど、なんとも思ってない人の苗字出しただけでこんなへそ曲げることある? 鏑木くんって、実はちょっとめんどくさいひと? ……まあ、他に欠点らしい欠点もないし、嫉妬も束縛も少しはされないと不安だしいいけど……)
それどころか、たとえ鏑木くんの気分を害してしまっていたのだとしても、私はそこまで悪いことをしていないということを再確認できた。
「……ふうん。そっか。まあ、いいけど。俺のこと、もう一回下の名前で呼んでくれたら許してあげる♡♡」
「ごめんね。…………千尋くん」
「いいよ♡ 紗世ちゃん♡」
(さっきはちょっと面倒かなって思ったけど、すぐに機嫌直してくれるの単純で可愛いかも♡ 付き合いは長いけど、友達のときは全然そういうひとだって知らなかったし……。私たち、本当に恋人同士なんだ…………♡♡)
私の名前を呼んだあとも持ち上がったままの口角を見つめて、ようやく実感が湧いてきた。
「やっぱり紗世ちゃんに『千尋』って呼ばれるの嬉しいな♡♡ ほんとは呼び捨てでもいいくらいなんだけど」
「……私も♡ 鏑木くんに『紗世ちゃん』って呼ばれるの嬉しい♡」
――――ただ、彼が私を下の名前で呼び出した時期ときっかけはいまだに思い出せていなかった。
(付き合い始めてから、対面でも文面でも結構な回数呼ばれてる……けど、鏑木くんが私を『紗世ちゃん』呼し始めたのって、すごく最近じゃなかったかな……?)
大したことではないのかもしれないけれど、私はずっとそのことが引っかかっていた。
(少なくとも、先週鏑木くんちにお泊まりする前までは『和泉さん』って呼ばれてた気がするんだよね……。考えすぎ? 他の人と勘違いしてる? でも、他の人の記憶と鏑木くんとの思い出が被るっていうのは……ちょっと考えにくいんだけど…………)
「じゃあ、これからもいっぱい呼ぶね♡♡」
そう宣言した彼は、カーステレオから流れてくる洋楽を口ずさむのに戻った。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。


マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる