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“mellow time”~いつか夢で~
“mellow time”~いつか夢で~<20>
しおりを挟む「…………そういう靴って、なんかいいよね♡♡ 靴なのに歩きにくいって、一見すると致命的じゃん。実用性の面だけで考えたら、ダメダメだ。……でも、可愛い女の子をもっと可愛くするためのアイテムなんだって考えたら、天才としか言いようがない♡♡」
鏑木くんは褒め上手だ。言葉の扱いに長けている。
しかし、上っ面というわけでは決してなく、彼の言葉は薄くも軽くもない。上昇気流のように私をどこまでも押し上げてくれる。
いま彼が褒めちぎってくれている靴だって、なかなかの重量なのだけれど、脱がずとも天まで舞い上がっていけそうだ。
「紗世ちゃんが大丈夫そうなら、このまま差し入れの下見行って、あとで一緒に食べるスイーツもゲットしてきちゃおうかと思ってたんだけど、どうしよっか?♡♡」
「……一緒に食べるスイーツ?♡ 沢田さんがサービスしてくれたケーキの他にもデザート頼んでたのに?♡」
「うん♡♡」
「沢田さんのケーキ、大きすぎてお持ち帰りにしてもらったのに?♡♡」
とんとん、と箱の隅を叩いてアピールする。さっきの今で忘れてしまったはずはないけれど――――。
「うん♡♡ それはそれ、これはこれだよ♡ 俺んち冷蔵庫、いい感じに空きあって、ケーキの箱入れてもまだ大丈夫そうだからさ♡♡」
「こないだみたいにぎっしりじゃないの?♡♡」
「あー……。期待させちゃってたら、ごめん。冷凍庫はアイスの群生地って感じだけど、冷蔵庫のほうは全然なんだ。何もないとまでは言わないけど、先週のはね、スペシャルエディションだったから」
鏑木くんは手刀を切った。このひとは表現がいちいち面白い。
「紗世ちゃんの好きそうなもの買っておこうかなとは考えたし、食べてもらって感想聞きたいものもいっぱいあったんだけどさ。好きなものは普段から食べてるだろうから代わり映えしないし、俺の好み押し付けてばっかりってのもちょっとなあ……と思って、今週は先週ほど用意してないんだ」
「そうだったんだね。いろいろ考えてくれてありがとう」
「うん。それはいいんだけど…………。俺といるのに、二回連続で沢田の名前呼ぶとか……。紗世ちゃんって、結構怖いもの知らずなとこあるね?♡♡」
彼の声が徐々に低くなっていく。不穏な靴音を響かせながら、地下室へ続く階段を下りている途中みたいだ。
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