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“mellow time”~いつか夢で~
“mellow time”~いつか夢で~<18>
しおりを挟む「紗世ちゃんは覚えてるよね?♡」
期待を込めた眼差しを送ってくる鏑木くんは、名乗るのを億劫がっているわけではない。甘えている――というのも半分正解で、半分不正解だろう。なぜなら、彼はおそらく――――。
(……下の名前で呼ばれたいってことだよね? 人前で、私に。恥ずかしいけど……)
そういうことなら、私が答えないわけにはいかない。鏑木くんに向かって頷いて――――。
「…………千尋くん……♡ ……です。もう忘れないであげてくれると、私も嬉しい……かも!」
呼び慣れない名前を発しただけなのに、ベッドの上で甘えるときのように鼻にかかった声が出た。
「ああ! そうだったな。千尋……千尋か! そういえば、そんな名前だったな。イケメンなうえにフルネームもかっこいいし、おまけにこんなに可愛い彼女までいるなんて、アニメの主人公かってくらい恵まれてるよなあ。鏑木は。もう忘れないように気を付けるよ!!」
普段から呼んでいれば、こんなことにはならなかったのだろうか。幸い、私の元の声など記憶にないであろう沢田さんは、特に気付いていないらしかった。
少し冷静になってくると、彼の名前のせいか、異界に踏み入った少女が奪われた名前を取り返す映画を思い出した。
「おまけに最高の親友までいる。いつもありがとな、沢田!」
「!! おう!」
沢田さんは大きく鼻を啜った。やはりこの人は相当な感激屋さんのようだ。
「最高の彼女の紗世ちゃん?♡ これからは『千尋』でいいよ?♡♡ 『鏑木くん』って長いし噛みそうになると思うし、ね?♡」
「え、ええっと…………」
名前呼びをゴリ押ししてくる鏑木くんの笑顔には、感じたことのない圧があった。
「はいはい。そういう話はお席に着いてから頼みますよ、お客さん! 空いてるし、どこでも好きなとこ座ってくれ。……あ、でも。でかいケーキが置けるテーブルで頼むわ!」
「どこでもじゃないじゃん!」
ふたりの会話を聞きながら、鏑木くんのあとについていく。彼が選んだのは、店の入口からは死角になっている席だった。
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