yours-夢の罪過-

“mellow time”～いつか夢で～

“mellow time”～いつか夢で～＜9＞

「……ええっ！？　鏑木くんの作ったご飯？　そんな……食べたいけど、贅沢すぎるよ…………！！」

　わんちゃんと一緒になって、左右に大きく身体を振る。

　若干大袈裟すぎるほどに断ったけれど、この程度で引くひとでないことは長年の経験から知っている。――――だからこそ、一・度・は・断・れ・た・なんて言い方も出来るかもしれない。

「あはは♡ そんな豪華なものは作れないし、贅沢なんてことないんだけどなあ♡♡」

「……そうかなあ？　私、自分だとそんなに和食にしないし、定食屋さん行くとテンション上がっちゃうよ？　小鉢が選べたら、その日一日ずっとハッピーだし！」

　――――他の何にも勝る理由は、『好きなひとの手作り』という点をおいて他にない。
　
　鏑木くんが私のために腕をふるってくれたのなら、しょっぱすぎるおひたしが小鉢いっぱいに盛られていても、生煮えのじゃがいもが入った豚汁が出されても、炭化の進んだ卵焼きが一本まるまるお皿の上に寝そべっていても完食してみせる。
　
　まさか彼に限ってそんなことはないと思うけれど。

「わかる！　小鉢、迷うよね。ああいう副菜、自分で作ろうとすると結構手間かかるもん。いっぺんにどっさり作ったら作ったで、全部食べ切る前に飽きちゃったりして」

「普段から作ってるひとが言うと、言葉の重みが違うね……！　私なんて、食べたくなったら出来合いのお惣菜買ってきて済ませちゃうよ」
　
「和食好きっぽいのに、家ではしない……ってことは、作るのが苦手？」
　
「うん。味の調節が難しくて。洋食だったら胡椒とかオリーブオイル、中華だったらオイスターソースとか鶏がらスープで軌道修正出来るけど、和食はなんか……うん…………」

　お料理スキルの高い（※推定）彼に聞かせるのはレベルの低い話だ。意図せず小声になってしまう。
　
　性癖をひとつ暴露するほうがまだ恥ずかしくなかったかもしれないけれど、それはそれで人として女としてどうなんだろう。

「なるほど。なんとなくわかったかも。和食は素材の味重視みたいなとこあるからなあ……。強い味で誤魔化す手が使えない分、シビアだよね」
　
「そうなの！　和食が得意なんて、鏑木くんほんとすごいよね。尊敬しちゃう！　マイぬか床とか持ってそうだし、自治体から畑借りて家庭菜園してそう……！」
　
「え！　俺、そんな丁寧に暮らしてるイメージ！？　年中こんなの着てるのに？」

　彼はおかしそうに笑いながら片手をハンドルから離し、お腹のあたりで余っている生地を引っ張った。