yours-夢の罪過-

片喰 一歌

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“mellow time”~いつか夢で~

“mellow time”~いつか夢で~<8>

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<紗世side> 

 
「…………紗世ちゃんのことだから、納得行くまで練習したんだろうね。俺のためにって言うんだったら、是非ともお味を確かめさせてもらわないと♡♡」 

 運転中の彼だけど、信号待ち以外でもなるべくこちらを向こうとしてくれていることに気付いたのは、彼の車に乗せてもらってすぐ。
 
 今は手元に視線を感じる。きっと『特訓』と聞いて、真っ先に怪我の心配をしてくれたのだろう。
 
「でも、私の思う『美味しい』だし……! 味見のしすぎで、味覚変になっちゃってたかもしれないから…………。期待はそこそこにしておいてほしいな?」

 さっきまで熱心に食べてとアピールしておきながら、予防線を張るなんて矛盾しているかもしれないけれど、少しハードルを上げすぎた。

「ううん。期待しないなんて無理♡ 俺にとって『美味しい』ご飯じゃなかったとしても、紗世ちゃんの好みの味付けについて理解を深められるふかくしれる絶好のチャンスなわけだし、よく噛んで味わうよ♡♡」
 
 彼の優しさのこもった言葉にうるっとしたけれど、ここ一ヶ月の間でいちばん上手く行ったメイクをデート開始直後に崩すわけにもいかない。
 
「…………だけど、今日じゃなくたっていいんじゃない? 俺はわりとなんでも美味しく食べるタイプだけど、紗世ちゃんはそれじゃ嫌なんでしょ? 紗世ちゃんじぶんが食べても『最高に美味しい』って思えるものじゃないと出したくない。違う?」

「! 違わない……けど、どうしてわかったの?」
 
「簡単にわかるとか言ってほしくないかもだけど、わかるよ。君が頑張り屋さんなことは、ずっと前から知ってる。アドリブがきくタイプじゃない代わりに、これって決めたことは誰がどう見ても完璧って言うくらいに極める子だって。……まあ、要領がいいとは言えないけど、俺は紗世ちゃんのそういう真っ直ぐなところが好きだよ」

「あ、ありがと……♡ 全部褒め言葉って感じじゃなかったけど、逆に鏑木くんの本音聞けた気がして嬉しい」
 
 真剣な声での評価は所々耳に痛くて、せっかく我慢した涙が再び滲み出したけれど、今回もどうにか堪えた。
 
「あはは♡ 俺はお世辞なんて言わないよ。全部本音♡♡」

 と告げた声もやはり真剣だ。ちらりと窺った顔は前方を見ていた。

「何品かを重点的に練習してたってことはレパートリー増やす時間もなかったと思うし、計画変更して別のものを……ってなると、完璧な状態で出せる保証はないもんね? ……いっそ、今日は俺が作ろうか?」

 視線がうるさかったのか、こちらを向いた彼は、にっと笑って代替案を提出した。
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