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“mellow time”~いつか夢で~
“mellow time”~いつか夢で~<5>
しおりを挟む「自炊するにしても大体和食にしちゃうし、スパイス的なのは黒胡椒とナツメグと……シナモンくらいしかないよ。シナモンはあの……なんだっけ、棒のやつ」
何かと便利なシーズニングはこないだ使い切ったばっかりだし、冷蔵庫の中身を充実させることに心を砕きすぎていたのかもしれない。
「パウダーじゃなくてステッキなんだ!」
シナモンはふと思い立ってクラフトコーラを作ったときの残りだけど、アップルパイとかにも使えるし、普段の料理に使えなくても邪魔ではない。
「そう。それ。そのまんまだったね?」
俺に技術があればアップルデニッシュでもよかったな。パンは上手く焼けたためしがなくて、若干苦手意識あるんだよね。極める前に和食中心の食生活にシフトしちゃったのもあって。
「……想像してた通り、硬派だね……!」
視界の端に映る彼女は、顎に手を当ててうんうん頷いていた。
この子に食べさせてあげるためにだったら、もう一度鍛え直すのもいいかもしれない。……けど、硬派ってなんだ?
「…………調味料のストックが?」
「そう! 私、珍しいの見かけたらすぐ試したくなって買っちゃうんだけど、ハマらなかったら使い切れないうちに期限来ちゃうもん」
――――という物言いが少し引っ掛かった。
「へえ……。そうなんだ?」
調味料だったらまだ許せるけど、彼女が異性関係にだらしがないのはそのへんの性格も無関係じゃなさそうだ。
「だから、無駄に増やさない鏑木くんはすごいなって。お財布にも地球にも優しいね!」
期間限定メニューを発見した次の瞬間に頼んでる場面にだって何度も居合わせたし、美味しいものに目がないことだって知ってる。好きなものを増やすことに余念がないんだよね。君は。
「そうかな? ありがとう」
「黒胡椒にナツメグ、シナモン…………」
うちにあるスパイスを復唱してるだけなのに、彼女が言うと魔法の呪文みたい。
マザーグース的には、女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来てるらしいけど、この子もそうかもしれないな。
――――いっそ、先に胃袋掴んでおくのも有効か?
「あるもので作るのもそれはそれでいいかも? ……だけど、彼氏に初めて作ってあげるお料理がありあわせのご飯ってありなのかなあ……」
俺の計画なんて知らない彼女は、再び思案に沈んでいるようだ。
「ありあわせの料理、いいんじゃない? その場にあるもので何か作るって、生きていくうえで役立つスキルだと思うし、縛りプレイみたいな感じで好きだよ。美味しい組み合わせ発見すると嬉しいしね?」
「!」
ひゅっ、と息を呑む音が聞こえた。
不測の事態――――が招いた結果に頭を悩ませている彼女の気持ちだけでも軽く出来たらと思ったんだけど、俺、何か変なこと言ったかな?
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