yours-夢の罪過-

片喰 一歌

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仮初恋人遊戯

仮初恋人遊戯<33>

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 そのあと、ゲーセン内をぶらぶら見て回っていると――――。
 
「この子、すごく可愛い!!」

 ぬいぐるみがたくさん積まれたUFOキャッチャーの前で、彼女が立ち止まった。

「どの子? 包帯ぐるぐる巻いてるほう? 隣の黒い子?」

 視線の先を追うけど、彼女の好きそうな子が隣り合ってて、どっちがそのハートを射止めたのかわからなかった。

「包帯の子も可愛いけど、こっちの黒いわんちゃん! 何かのキャラかな?」

 と顎に手を当てた彼女のほうがよっぽど可愛いと思う。いや、可愛いには可愛いんだけどね?

「何の作品かとかはわかんないけど、ブラックドッグっぽいな。いや、チャーチグリムか? そのふたつ、そもそもどう違うんだったっけな……?」

 問題のぬいぐるみは、シュッとしてスタイリッシュな印象の黒い犬だった。ちなみに目は赤い。
 
 デザイン的にも色合い的にも可愛いってよりかっこいいんじゃないかとは思うけど、彼女が可愛いって言うんだから可愛いはず。可愛い彼女が可愛いって言うんだから可愛いんだろう。たぶん。

 ……待てよ。それでいくと、彼女に『可愛い』って言われた時点で俺まで可愛いことになるよね。ないない。やっぱり今のなし!

「お墓守ってる子だっけ?」

「そうそう。紗世ちゃんは、こういうちょっと怖めのデザインも好きなんだ?」

 ファッションセンスからは想像がつかないと思ったけど、よくよく考えたら好きな雑貨のデザインと服のデザインが一致しているとも限らない。

「好き! ハロウィンっぽい雰囲気好きだし、このわんちゃんはお顔もすっごく可愛いから」

 彼女のひと言につられて、そのぬいぐるみを観察してみたら、確かに整った顔をしていた。

 もちろん同じデザインの子は他にもたくさん積まれてるけど、ぬいぐるみの顔ってひとつひとつちゃんと違うもんね。

 製造工程でパーツの配置が微妙にずれるんだろうけど、元がそんなに大きいものでもないのに結構違うように見えるのって、なんか面白いな。

「意外と面食いなんだ?」

「可愛いと綺麗には抗えないよ! だから、鏑木くんのお顔も大好き!」

 からかったつもりだったのに、自然に答えられて、こっちがどきどきする羽目になるなんて。
 
 こういうことがちょくちょくあるから、一緒にいて飽きないんだよね。きっと、何十年って一緒にいても変わらないんじゃないかと思う。
 
 ――――旦那の座が云々って言ったの、あれ本気だからね。

「しかも、この子……ちょっとだけ昨日の子に似てない? 覚えてる? あのペットショップで、鏑木くんが『ずっと私のこと見てる』って教えてくれた子……! この子はダックスじゃないけど、身体のほとんどが黒なのも一緒だし!」

 ガラスの向こうを見つめる切ない瞳は、ため息が出そうなほど美しかった。
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