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仮初恋人遊戯
仮初恋人遊戯<8>
しおりを挟む「……♪」
わりあい大きめの独り言を連発していたというのに、ぶかぶかのTシャツの裾が捲れ上がってしまっている彼女が目を覚ます気配はなかった。
「まったく。こんな恰好なのに、気にしないで動くから…………。お腹冷やしちゃうよ。……いいけどね。隣に寝るのを許してくれてる限り、俺が直してあげるから」
唇を寄せかけて、思い直す。
次にするのは、彼女が目を覚ましてからにしよう。あわよくば、彼女のほうからしてくれないかな。
そんなことを考えながら、瞼を下ろした。
<紗世side>
「ん……? まだ夜…………?」
夜明けは当分先らしいというのに、意識が急浮上してしまった。
時刻を確認するためにスマートフォンに手を伸ばそうとしたけれど、得体の知れない強い力に阻まれる。
「……だめだ。動けない」
――――というか、そもそもどこに置いたっけ?
本当はよくないとわかっていても、独り寝だと孤独に堪えかねて、チャットアプリを開いて自分だけのトークルームに延々と謎ポエムを綴ってしまったり、デートに着ていけそうな服を見繕ってしまったりする習性が私にはあった。
昨日もそんな感じで寝ちゃったような気がしてたんだけど、違ったかな?
(謎ポエムは痛々しすぎるかもだけど、人目に触れない場所でやってるだけましだよね……。だけど、一回だけ間違えて履歴のいちばん上にいた鏑木くんに送信しちゃったことがあって、そのときは――――)
平日の午前三時を回ろうかというところだったのに、いつもとは様子の違うメッセージを受け取った彼が電話をかけてきてくれて、いわゆる寝落ち通話に付き合ってもらった……なんて事件もあった。
(あんなに優しいひと、他にいないよね。少なくとも、私の知ってる中では鏑木くんだけ……)
心配も迷惑もかけて申し訳なかったけれど、あの出来事がきっかけで彼のことを意識し始めたようなおぼえがある。
「……誰の腕……?」
もう一度、置き場所のわからないスマートフォンを求めて腕を伸ばしたのと同時に、寝る前の記憶がおぼろげによみがえってくる。
私をきつく抱き締めている腕の主は、誰あろう――――。
(私…………鏑木くんにハグされたまま、寝ちゃったんだ……!)
やっと目が慣れてきて確認できた彼の表情は、とても満ち足りたものだった。
「熟睡してるみたいなのに、ぎゅーってしてくれてる。ありがとう」
顔にかかっていた毛束からも、触り心地のいいパイル地のTシャツからも、彼が近くに来るたび、彼が隣に掛けるたびに漂っていたえもいわれぬ芳香がいつになく強く香ってきて、下腹部が切なく疼いた。
「髪も着てるものも、鏑木くんとお揃いの匂い…………。だけど、やっぱり鏑木くんのほうがいい匂い……♡」
首元に顔を寄せ、深く息を吸って、人工的な香料の奥に潜んだ彼本来の香りに酔いしれる。
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