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親友転序
親友転序<21>
しおりを挟む「あの……。さっきは言いそびれちゃったんだけどね? できれば、ひとつをふたりで食べたいなあって思ってるんだけど……」
比較的大きめな冷凍室の引き出しを開ける段になって、彼女はそんなことを言い出した。
「いいけど、お腹冷やしちゃうとか脅したから? アイス一個くらいなら大丈夫だと思うよ? 気になるなら、食べたあとホットティーでもなんでも淹れるし」
「ありがとう。でも、そうじゃなくて……。今日は私の行きたい場所いっぱい付き合ってもらったのに、どこにもハートのストローで飲めるドリンク置いてるお店なかったから。全然代わりにならないかもしれないけど……!」
『俺の願いも叶えたい』と思ってくれてるって解釈でいいのかな。
そういえば、昼間も彼女はカップル限定メニューを提供するお店を虱潰しに探していた。
「…………そんなことないよ。ありがと♪ 俺のリクエスト聞いてもらうんだし、せめて紗世ちゃんが好きなの選んで? 俺んちの冷蔵庫だから好きなのしか置いてないし、どれ選んでくれてもOKだから」
「鏑木くんってほんとに優しいよね」
「……紗世ちゃん……。俺たちがどうして今日一緒に過ごすことになったか覚えてない? 『付き合っても大丈夫な男かどうか見極めてもらうため』だよ? 『優しいふりは演技かも』って疑ったほうがいいんじゃない?」
あまりの純粋さに心配になって、自分の首を絞めかねない発言が飛び出してきた。
「でも、鏑木くんは前から優しいよ? だから、下心からの優しさでも一時的な優しさでもないって、ちゃんとわかるもん」
しかし、彼女は真っ直ぐ俺を見つめたまま、言い切った。
「……じゃあ、今日の俺は今までと同じ感じで、代わり映えしなかった?」
「ううん。そんなことない。きっと鏑木くんは…………」
目を伏せた彼女は切なそう……というか、今にも泣き出してしまいそうだ。
「…………。いつも優しくしてくれて本当にありがとう。答えは明後日まで待ってくれるんだよね?」
でも、数回まばたきしたあとは、いつも通りの元気で愛くるしい彼女に戻っていた。
「ちょっと待ってね。時間確認させて? ……そうだね。まだぎりぎり土曜だから、それで合ってる。時間的には実質一日しかないけど」
俺が期間限定じゃなくて正式な彼氏だったら、憂いの理由を聞き出して根本から断ち切ってあげたのに。
――――『寝ているその子を好き勝手犯したくせに』って?
自分でもそう思うよ。たぶん俺の感覚や基準はちょっとおかしいんだろう。
「答え……もう決まってるんだけど、明日も一緒にいてくれる?」
「当たり前じゃん!」
勢いよく抱き締めてしまって冷や汗が伝ったけど、嫌そうに身体を離されることも抗議の声が上がることもなかった。
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