35 / 268
親友転序
親友転序<16>
しおりを挟む帰り道はぎこちなくなってしまう――――なんてこともなく、他愛ない話をしていたら、見慣れた扉の目の前にワープしていたという感じだった。
「お先にどうぞ?」
家に着き、いつものように鍵を開けたあとは、斜め後ろの彼女に声を掛ける。正式に招待するのは初めてだから、ほんの少し恭しくね。
「ありがとう。ただい…………」
彼女ははっとして、言いかけた言葉を呑み込んだ。
「最後まで言わないの?」
「自分の家でもないのに図々しかったかなって思って……」
「図々しくなんてないよ?」
玄関扉を後ろ手に閉め、片腕で軽く抱き寄せる。
『少しでもときめいてくれますように』と願いを込めながら。
「…………ほんとはずーっと帰したくないし、毎日でも聞きたいくらいなんだから…………」
「え……?」
首をこちらに向けた彼女は、勝手な行動に対する非難か困惑なのか判別しかねる声を上げた。
「スキンシップは契約外だった?」
『禁じ手』という単語が脳裏を過ったけど、構わず拘束を強めて語りかけた。
「あ……。そっか! 今は彼氏だもんね? だめじゃないよ」
すると、彼女は納得したようにそう言って、首の前に回った腕に、ちょこんと手を添えてくれた。
「よかった」
そっちがどの程度のスキンシップまで想定してるかは知らないけど、念のため確認しておきたい。
短い言葉に気持ちを託して、また口を開く。
「ちなみに、『彼氏だから』? それとも、『俺だから』許してくれたの?」
「…………。鏑木くんだから。鏑木くんだったら……いいよ……」
もっと詳しく聞きたいところだけど、追及するのはかわいそうかな。
肝心の『いいよ』って部分がほとんど聞こえないくらいのボリュームだったのは、恥ずかしかったからだろうし。
「ありがと♡ したいことは許可取る前にしちゃったけど、してほしいこともあるんだ。俺のお願い、聞いてくれる?」
「なに……? 私は何をしたらいい?」
と尋ねる声には、日焼けしたあとの肌に残るような、ひりひりした緊張感が迸っていた。
「大丈夫。すごく簡単なことだから」
「簡単? ほんとに?」
何をお願いされると思ってるんだろう。彼女の声には警戒心が残ったまま。
「難しいことなんてないし、数秒で終わるよ。さっき言いかけたことを最後まで言ってほしいだけだもん」
「私、言いかけたことなんてあったかな?」
「あったあった。……ねえ。『ただいま』って言って?」
この子の声で聞きたい台詞は無数にあった。
でも、今は――――俺たちの関係を進めるのに必要な台詞より、煩悩てんこ盛りの長ったらしいおねだりより、そのひと言が聞きたい。
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる